雪恋。

初雪。１ (west・赤) ページ1

Aside


給湯室で、会議用のコーヒー淹れてたら。

同期の重岡がひょこっと顔を出した。


同期と言っても、
重岡は堂々の正社員で、

私は不安定な契約社員で、
いつクビ切られるか分かんない立場で、

２５歳の同い年なのに、身分違いではある。


「A、人数変更やって。
会議室のコーヒー、全部で２５人分頼むわ」


「了解」


重岡、すぐに出てくと思ってたのに、
追加のカップを数えてる私のこと、
じっと見てる。


「どうしたの？」


そんなに見られたら、緊張する。

ただでさえ、濁りのない、
まっすぐな瞳なのに。


「ああ、いや、あのさ・・・」


重岡が、腕時計に目を落とす。

珍しく、歯切れ悪くて、迷ってるみたい。


その仕草だけで、
胸はきゅうって締め付けられて。


この狭い空間の酸素が薄くなってく。

バカみたいに乱れ始めた心臓が破れたら、重岡のせいだ。


「・・・どうしたの？変なの」


「えっとな」


重岡が言いかけた時に、
同じく同期入社の麻衣子が入って来た。


「あっ、重岡もいたんだ。
ちょうど良かった。
金曜、同期で飲みに行かない？
バレンタインの日。
彼氏に会えないって言われたの。
落ちてるから、みんなで慰めてよ」


麻衣子、拗ねた口ぶりだけど、
こっそり私に目配せしてる。

重岡への密かな片想いを知ってるのは、
麻衣子だけ。

アプローチしなよって、
なんなら、金曜のバレンタインに、
告白しちゃえって、

いつもけしかけ、

いやいや、
応援してくれてるんだ。


気軽に集まれる、
今の関係壊れるの怖いし、
告白なんて、めっそうもないけど、

麻衣子のおかげで、
バレンタインに重岡に会えるのは、嬉しい。


「おお、ええで。
同期だけやなくて、
照史先輩も誘てええ？」


重岡も乗り気みたい。


「決まりね。
神ちゃんと、風花ちゃんと。
濱田先輩も呼ぼうかな。
私、他のみんなにも声かけとくわ」


麻衣子の用事、それだけだったのか、
それとも私に気を遣ったのか、

さっさと給湯室を出てった。


「金曜って、もうバレンタインやねんな」

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