【スタミュ】黒崎蘭丸の従兄弟が綾薙に居るⅥ (ページ38)

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好きな音ページ38

哀葉は軽い調律を済ませ、鳳に合図する。それと同時に、揚羽も配置についた
遥斗の前で初めて見せる、自分の演技。揚羽は随分と落ち着いていた

『じゃあ、樹さんのセリフから行きます。キューお願いします』

「では、始め!」

「お前は俺の天使だ。俺の心のように穢れないでくれ」

「──…君の傍にいる」

普段の揚羽からは想像のできない、低い声は遥斗を尊敬しての表れだ
写し鏡のようなその姿を見た遥斗は色々と思う事が出来ただろう

(揚羽の心、壊れないといいけど…遥斗さん、言葉の端々に棘があるからなぁ)

この日は遥斗は何も言わなかったが、きっと個人練で何かを言われることだろう
その後のことを哀葉は知らない

柊は何を思ったか、その後も伴奏を彼女に任せた。通常ならば双葉が担当するが、いかんせん効率が悪かったため、哀葉は適任だろう
それに、彼ら華桜会にとって彼女の音色は聞きなれたものなのだ。自然と彼女を選びたくなる。勿論、彼女のピアノ指導を受けたことのある鳳勢と柊勢もそうだった

「哀葉の音は綺麗だねっ」

「ま、それは戌峰君に同意かな。楽器触ってる時の黒崎君って凄いワクワクしてて見てると楽しいんだよね」

「おぉ、卯川が褒めた」

「ちょっと、虎石君どういう意味」

卯川の小言を受け流しながら、虎石は哀葉を見つめる

(顔がオンナノコに戻ってんぞーなんて、言えねえけど)

そういう虎石も表情が一人の恋する男の顔だったことを、指摘する人はいなかった

休憩の笛が鳴り、午前の練習は終了。一次休憩だ
練習が終わるなり生徒たちは水道へ向かい、口々に練習がハードだったと話している
アンシエントでさえ、その指導はスパルタだというのに妥協を許さない人間がさらに増えたのだ。相当な練習量だろう

『和泉ースポドリ持って…あら』

まだ稽古場に残っていた(正確には伸びていた)虎石を呼びに、顔を出すと彼は空閑、北原と共に休憩返上で自主練をしていた

『まさしくFace offってか。いい方向に変わったなぁ、和泉も』

哀葉は壁に寄り掛かりながら、練習をする三人を見つめて笑う
けれど、疲れから虎石がステップを間違え、よろめいたのを見過ごしはしなかった

『せめて水分取ってから休み返上してくれるか?』

「っと、悪りぃ」

哀葉はよろめいた虎石の腰に手を添えて、支える。本来なら立場は逆である

『愁も。倒れられちゃ元も子もないだろ。ほら、スポドリ』

「サンキュ」

「で、哀葉。いい加減この手どけろ!」