25話 ページ27
緊張と不安でドキドキと胸が痛いほどに鳴る。
まるで裁きを待つ罪人のよう。
怖くてグッと目を瞑る。
『久しぶり、天月。』
はっと顔を上げる。
それはそれは優しい笑みだった。
2年前と一つも変わらない、俺だけに向けられた笑顔。
その笑顔は、半ば意地のように張り付いた虚栄もずっと俺の中にあった不安も、一瞬のうちに吹き飛ばした。
「っ久しぶり...A」
ボロボロと溢れ出す涙を拭うことすらせず、もつれる足を必死に動かしてAの胸に飛び込む。力強いAの腕の中でただただ抱きしめられていた。
本当はずっと謝りたかった。
当たってごめん
怒ってごめん
本当はAのこと大好きなんだ
ずっとずっと大好きだったんだよって
泣いて縋って、
許してもらいたかった
「ごめん....っごめんなさい!
ずっと、ずっと謝りたかった!」
Aはその大きな手で、あやすようにポンポンと優しく背中を叩く。
『うん、うん。俺もごめんな』
鼓膜にそっと響く声。
あぁ、Aは俺を嫌ってなんていなかった。
怒ってなんていなかった。
それから、俺たちは離れていた二年間を埋めるように沢山の話をした。
アニバーサリーライブに出演してくれないかと言われた時には嬉しすぎてまた涙ぐんでしまった。
離れていた分、少しでも隙間があるのが勿体なくて、二人でぴったりと寄り添いながら話をした。
長い間そうしていたけれど『そういえばさ』とAが思い出したように切り出した。
『天月さぁ、明日暇?』
「え?また?
うん、しばらくはオフだから何もないよ」
『そっか』
俺の返事を聞いたAは側にあった窓を開け、ベランダに出る。
どうしたんだろう、と追いかけようとするとそれを遮るように声を上げた。
『明日』
「え?」
低く響いた大好きなAの声。
それがなぜか、今はひどく不気味に聞こえた。
『明日みんなに全部話す。』
「な...にを?」
秋と呼ぶには少し早い、夏と呼ぶには遅すぎる。宙ぶらりんで名前のない季節の空気が、風とともに部屋の中に入ってきた。
吹き抜ける風が勢いよくレースのカーテンを揺らす。
バサバサと揺れるカーテンの音に混じって聞こえてきたのはAの喉から漏れ出す無感情な声。
『俺がボカロ辞めてた理由』
翻るカーテンの先で彼が一体どんな顔をしていたのか、薄いレースに遮られてしまった俺には上手く捉えることができなかった。
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ゆきうさぎ - コメント失礼します。作者様の負担になるようでしたら話は別ですが、僕は皆でハッピーエンドが良いと思います。 (2020年9月20日 1時) (レス) id: f935ff1209 (このIDを非表示/違反報告)
あお - 個人的にはhappyendが好きなのでhappyendが読みたいです…! (2020年6月15日 18時) (レス) id: 57a51dc74d (このIDを非表示/違反報告)
匿名主(´・∀・`) - 初めまして、失礼します。個人的にはhappy endが良いんですが…一回何らかの endで完結させてしまって、その後に場面分岐的な終わり方にすれば良いのではないか。と考えております。作者様に負担が掛かってしまいますし、上からで申し訳ないんですが…考えて頂ければと (2020年6月13日 21時) (レス) id: 610e5b95f1 (このIDを非表示/違反報告)
ペン - 初めまして、今日は。 秘かに読まさせて頂いてます。今更なのですが、 happyendが良いと思ってます。体調に 気を付けて更新頑張って下さい。 (2018年6月24日 11時) (携帯から) (レス) id: c5e8935b6a (このIDを非表示/違反報告)
にょむさん - 個人的にはHappy Endがいいです! (2018年6月17日 22時) (レス) id: c18b2f6fe2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紺碧 | 作成日時:2017年12月3日 21時