35話 ページ36
この頃Aちゃんはよく笑うようになった。
瀬呂君と、上鳴君と、切島君と
そしてかっちゃんと。
くしゃりと顔を綻ばせて笑うAちゃんを遠巻きに眺めては、
どうして僕はそこに居ないのだろうと例えようのない寂しさが僕を包んだ。
本当は僕だってAちゃんともっともっと話したかった。
失った3年は帰ってはこないけれど、それでも会えなかった話せなかった分、今をAちゃんと一緒に過ごしたい。
けれどそれは僕には許されていない。
自分の欲に蓋をして、遠くでAちゃんの幸せを願うことぐらいしか僕にはできない。できないはずだった。
ましてやこんな風に、一緒に出かける資格なんてもう僕には無いはずなのに...
『そうだ。
出久、手出してくれる？』
ふと、思い出したかのようにバッグの中に手を入れるAちゃん。
取り出したのは、オールマイトをイメージした今期発売されたキーホルダー。
『さっき見つけたんだ。
部屋の鍵無くしやすいって言ってたから、付けたらいいんじゃないかなって。
今日付き合ってくれたお礼。』
Aちゃんが、僕に?
あまりにも唐突な出来事で処理がしきれなかった僕は、
嬉しさと驚きが入り交じり、パチパチと何度も瞬きをしてAちゃんとキーホルダーを交互に見つめる。
しばらく声を出せずにいると、
『気に入らなかった？ごめん...余計なお世話だったかな？』
そう言ってAちゃんはまた、困ったように眉を下げて笑った。
そんなAちゃんに愛おしさが込み上げる。
「ううん！すごく嬉しい！！
ありがとう、Aちゃん！」
大好きなAちゃんが僕を思って、僕のために選んで買ってくれたプレゼントが嬉しくない訳が無い。
先ほどまでの冷たい気持ちが嘘にように散って行き、代わりに心地いい暖かさが僕を満たした。
大切にしよう、そんな気持ちを込めてぎゅっと胸に抱きしめる。
そんな僕を見て、Aちゃんは嬉しそうに目を細めて笑った。
『よかった
今日無理矢理誘ったから、
本当は俺となんか出かけたくなかったんじゃないかって、
心配だった』
「っそんなわけないじゃないか！」
どうしてだろう
目の前の優しい幼なじみは、どうしても物事を悪いように考えてしまう。
もっと愛されて良いのに、幸せになっていいのに、
どうしてこんなにも悲しみと共に生きているんだろう。
『俺、ずっと
出久とちゃんと話しがしたかったんだ。』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1326人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ウタ - 次の展開がどうなるのか楽しみです (2018年7月18日 22時) (
レス) id: 5d727cd1f1 (このIDを非表示/違反報告)
雫(プロフ) - めっちゃいい話だと思います！！更新楽しみにしてます！！ (2018年7月16日 8時) (レス) id: 83591e10d1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - ストーリー展開がとても好みだし、文章が、言葉ひとつひとつが綺麗で好きです。本当に素敵な作品ですね！ (2018年6月24日 21時) (レス) id: bc7a356a9c (このIDを非表示/違反報告)
こパンダ - とてもたのしみにしてます。頑張ってください！ (2018年6月22日 17時) (レス) id: 7360b2bbb8 (このIDを非表示/違反報告)
甘露蜂蜜(プロフ) - あああこれは夢主くん弔くんのこと思い出してほしいやつです…！こういうめっちゃシリアス系好きなので展開がすごく楽しみです。頑張ってください。 (2018年6月17日 23時) (レス) id: 817d133cd9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：紺碧 | 作成日時：2017年11月13日 21時
