3話 ページ4
とある病院の一室。
しんっと静まり返ったその部屋では、一人の少年が眠っていた。
呼吸の音すら聞こえてくるような静謐に包まれた病室で、終尾Aは眠り続けている。
爆豪勝己は、面会が許可されてから毎日欠かさずに病室を訪れていた。
布団から出た腕は細く、栄養を送る管がいくつも刺さっている。
痛々しいその腕にはおびただしい数の切り傷や火傷跡。それらはどれも古い傷で完全に塞がっているが、これ以上跡が消えることは無いだろう。
きっとこれは幼い頃の、まだAが俺の隣にいた頃の傷だ。
自分のものより一回り小さい手を布団の上で優しく握りしめた。
「A...」
戻ってこい。
今度こそ大切にしてみせるから。
記憶を取り出すには心身ともに大きなダメージを受けると聞いた。
三年分、Aを形作ってきたものを1/5も取り払ってしまうのだからそれも当然だ。
処置をしたヒーローは今まで三年分もの記憶を取り出したことはないと言っていた。
それゆえ、いつ目が覚めるとも分からない。
それでも側に居ずにはいられなかった。
手の甲に愛おしげに触れていると、ピクリと指が震えた。
ハッとして顔を上げるとAの睫毛が揺れている。
うっすらと開かれていく瞼から、薄茶色の瞳が覗く。
不安定な視線が俺を捉えた。
そっとその唇が開かれる。
幼馴染みの最初の一言を、判決を待つ罪人のような気持ちで待つ。
その一瞬が、まるで永遠のように感じられた。二人の間に流れた純粋な空白を、壁にかけられた時計の針の音が埋めた。
『......."かっちゃん"...』
弱々しく、それでも確かに俺の目を見て言った。
その言葉の意味を噛み締め理解すると、目頭がカッと熱くなった。
「A、...っA！」
状況を把握しきれていない幼馴染みに縋り付いて何度も何度も名前を呼ぶ。
『どうして泣いてるの』
さっきよりもはっきりとした声色で答える。
ああ、戻って来てくれたんだ。
俺の手の届くところに。
「俺が分かるか？どっかいてぇとねえか？」
こんなことを口にするだなんて柄でも無いと思ったが、そんなことには構っていられなかった。
Aが昔のように俺の名を呼んでいる、それだけで我を忘れるには十分すぎる理由だった。
『うん、どこも痛くない。だからもう泣かないで』
そう言って優しく頬に触れたその手は紛れもなく、三年前に消えてしまった幼馴染みのものだった。
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ウタ - 次の展開がどうなるのか楽しみです (2018年7月18日 22時) (
レス) id: 5d727cd1f1 (このIDを非表示/違反報告)
雫(プロフ) - めっちゃいい話だと思います！！更新楽しみにしてます！！ (2018年7月16日 8時) (レス) id: 83591e10d1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - ストーリー展開がとても好みだし、文章が、言葉ひとつひとつが綺麗で好きです。本当に素敵な作品ですね！ (2018年6月24日 21時) (レス) id: bc7a356a9c (このIDを非表示/違反報告)
こパンダ - とてもたのしみにしてます。頑張ってください！ (2018年6月22日 17時) (レス) id: 7360b2bbb8 (このIDを非表示/違反報告)
甘露蜂蜜(プロフ) - あああこれは夢主くん弔くんのこと思い出してほしいやつです…！こういうめっちゃシリアス系好きなので展開がすごく楽しみです。頑張ってください。 (2018年6月17日 23時) (レス) id: 817d133cd9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：紺碧 | 作成日時：2017年11月13日 21時
