想いをのせた風に_ymmt ページ6
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「…あれ、Aじゃん。こんな所で何してんの」
「…なんだ、山本か」
木々に囲まれたこのキャンパスを水彩画で美しく描いている彼女。
僕にそのセンスはないけれど、上手なことは見て取れた。
「よくここで絵を描いてるよね」
「ここで描いた絵は売れるの」
端的にそう言った彼女の横顔を日光が鮮やかに照らす。
「売ってるの?」
「趣味が生活費の足しになるから」
僕と話しながらも手を一向に止めないAに思わず笑いが零れる。
「んー…それ、いくらで売るの?」
「これ?…これは…」
出来上がり間近のその絵を彼女は自分自身で見て、満足そうに頷いた。
「500円かな」
「じゃあそれ、僕が買うよ」
思いの外やすかったその値段に食いつくと、彼女はビックリしたように僕を見つめる。
「ほんとに?!」
「え?うん…」
目を輝かせる彼女にちょっとだけ引きつつも、僕はその完成間近な絵を取った。
「その代わりさ、ちょっとお願いがあるんだ」
「お願い?」
きょとんと首を傾げる彼女に、俺は笑いかける。
「今度一緒に、ランチ行こうよ」
「ランチ…?」
「うん。僕が奢るから」
彼女は迷いげもなく頷いた。
「じゃあ、後日連絡するね」
「分かった。待ってる」
ふわり
彼女の柔らかく、緩くウェーブのかかった髪が風で美しく揺れる。
僕もその風に揺られながら小さく息を吐いた。
「結構緊張するんだなこれ」
自嘲気味にそう言い、僕は足を進めた。
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