Accueil【伊沢拓司】 (ページ6)

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川上side

「ほら、元気出しなさいよ」

「…なんだ、須貝さんか」

“ごめんなさいねー、Aじゃなくて”

ふざけたようにそう言った彼だけど、彼のその心配りに、安心してしまっている自分がいた。

「須貝さんは、なんとも思わないんですか？」

須貝さんだって、俺と同じだったはずなのに。

「伊沢と付き合ったって聞いたときから、俺は推しに切り替えたよ。Aは俺の中ではアイドルだからね」

苦しそうにそう言った須貝さん。

その表情からは、諦めきれていない様子が伺えた。

「伊沢さんみたいに、つきっきりでいてあげられたら何か変わったんじゃないかなって」

伊沢さんは、Aさんが事故にあってからずっと、つきっきりで彼女についていた。

講演会などで全国を飛び回っているのに、その合間を縫って彼女に時間を費やしていた。

「伊沢がいた時間はまぁ確かに有利だったかもしれないけど、そしたらファルさんも同等よ？」

“ファルさんを回してたのが伊沢だってAなら気がつくと思うけど”

苦笑いを浮かべた彼に、俺は思わずため息を吐いた。

なんでこの人は、こんなにも強く居られるんだ。

「…まぁ俺も、多分ずっと好きだよ、Aのこと」

須貝さんのその呟きが、彼の本音に聞こえた。

彼女への想いを断ち切ることができない、その苦しさに俺も頭が痛くなる。

「須貝さん一生独身ですね」

「うわ、マジじゃん。辛。仲間みんな結婚していくのに」

そんなジョークを並べながらも、多分俺たちは考えていることが同じだ。

…伊沢さん、Aさんを泣かせたら容赦なく奪いにいくので。