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着いたお店は完全に和だった。
車いす姿の私を見た瞬間、店員の人は奥へと通してくれる。
颯くんに変わりますよの一言を添えてから、私の車いすに手を付けた。
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」
店員さんはにっこりと微笑みながら“とんでもないことでございます”とだけ言い、テーブル席の個室から出ていく。
「あの人日本語わかってるね」
「それは思った」
私の言葉に、拓司はお冷を口元にもっていきながら答えた。
普通だったら“とんでもございません”と言いそうだけど、店員さんは“とんでもないことでございます”と言った。
“とんでもない”はそれだけで形容詞で───なんて、そんなことはどうでもいいか。
「こんないいところ、本当に奢ってくれるんですか？」
「いらねぇんだったらいいけど」
拓司の隣に座る颯くんが遠慮がちにそう聞いたのに対して、拓司は真顔でそう答える。
「いや、いりますいります」
さすがの医学部のプリンスでもおいしいものには目がないのか、颯くんは即座にメニュー表をめくった。
その光景がまるで兄弟のようで、ほほえましいなぁと見つめてしまう。
「ん？どうかした？」
「いや、二人のプライベート、見たことなかったから」
拓司と颯くんは顔を合わせると、二人そろって首を傾げる。
「…あー…でもそうかも。二人でプライベートで話すのってマジの二人の時くらいじゃん」
「僕的に三人はあったと思うんですけど」
確かに三人でディスカッションやクイズはしたことがある。
けど、こんな完全オフってあんまりやってない気がする。
メニューを決めて、店員を呼ぶと、先ほどの店員さんが来てくれる。
一通り注文を伝えると、彼女は繰り返し、それが正しいことを確認すると一礼してからこの個室を出て行った。
「じゃあ、ここで即興クイズとかする？」
ニヤリという音でも付きそうな拓司の表情に私は思わず吹き出した。
「あ、じゃあ即興クイズ作り対決しようよ」
「え、俺あれにいい思い出ないんだけど」
私の提案に拓司がそう言ってきたけど、颯くんとお構いなく話を続ける。
「いいよ、俺真新しいアイマスク二個持ってるし。俺と伊沢さんで一個使うからAで一個使いな」
「なんで水上はアイマスク二個携帯してるんだよ！」
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