Accueil【伊沢拓司】 (ページ14)

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山本side

Aさんの事故は、誰がどう見ても相手の過失が多かった。

それなのに、嫌な顔一つせず、こうちゃんに協力を仰ぎながらも相手方との折り合いをつけていく様子を僕はこうちゃんの隣で見てきた。

免許とりたての18歳の少年とその親が、彼女に全力で頭を下げていたのをよく覚えている。

その少年のお兄さんが意外にもこうちゃんの同期で、話は割とトントン拍子で進んで行った。

事故で下半身が動かないのに、彼女は少年に対して笑いかけていた。

僕にはそんなことはできない、そう思いながらその光景を見つめていたのを今でも覚えている。

「…じゃあ、これでいいか？」

「うん、Aさん確認して貰ってもいいですか？」

「わかった。こうちゃんまるで弁護士だね」

“まぁ、その卵ですから”

彼女の言葉に照れながら、こうちゃんはそう笑った。

今の彼女もそうだ。

車椅子生活なんて絶対に辛いのに、それを笑顔でこなしている。

そのお兄さんはそれだけで終わらず、Aさんの全快までこちらでサポートすると言ってくれたらしい。

「Aさん」

「んー？なに？」

僕は、うつらうつらと眠そうな彼女に話しかけた。

「僕はAさんのこと、大好きですよ」

そう。僕は彼女のことが大好きだ。

恋愛的な好き、ではなく人として。

彼女の奥には、決して曲がることの無い真っ直ぐで、強くて、優しい芯があることを僕は知っている。

「ふふ、面と向かって言われると照れるなぁ…」

伊沢さんに対する感情とAさんに対するそれは瓜二つ。

だから、伊沢さんと付き合っているって聞いた時に少しだけ傷ついたような気がするのは、きっと気の所為だ。

「Aさんのこと尊敬していますし、憧れています」

「なんか今日、祥彰変だよ？風邪ひいた？」

《尊敬じゃない、憧れでもない》

僕の心の叫びには、気が付かないふりをした。