Accueil【伊沢拓司】 (ページ1)

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人にはそれぞれ、故郷と認識しているものがある。

育った場所にしろ、生まれた場所にしろ、人々は懐かしいと感じる場所を故郷と呼ぶ。

「これならAでも料理できる部屋だと思って」

「…ありがと。でも大丈夫。もう少しで歩けるようになるから。そしたら拓司と並んで料理するの」

勿論、私にも故郷と呼ばれるものはあるらしい。

しかし、1年前に交通事故で故郷の記憶を失った私には、懐かしいと感じるものではなかった。

交通事故で故郷と両親の記憶を失い、途方に暮れる中、優しく声をかけて支えてくれたのが今の恋人である拓司である。

QuizKnockという団体に所属し、毎日クイズに明け暮れていたのは覚えているし、私の名前だってハッキリと覚えていた。

前から持っていた知識を失うことも無かったし、仲間のことも明白に覚えている。

拓司に両親のことを聞いてもはぐらかされる毎日だし、仲間に聞いてもまた然りだ。

両親は恐らく居ないのだろう。

だから、みんな何も教えてくれないのだ。

そう決めつけて来た。

「伊沢さんとAさんだ。何してるんですか？」

みんなのことを見上げている毎日。

首が疲れてしまいそうだ。

けれど私は、今の生活に満足している。