Aimer Ⅱ (ページ39)

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「なあ、A」

『ん？』

珍しく気弱だ。太いようでか細い声が耳をくすぐる。遥輝の着ているベージュのニットから微かにメントールの匂いがする。

「……俺、Aの前やとこんな女々しいけど大丈夫？
男らしくて堂々としてて、Aの身近におれる男の方がええんやない？」

遥輝は誰を連想しているの？巻き付いた腕は締め付けを強めた。

『やだ。遥輝やからええの』

色んな男性と出会った。付き合いもした。現在進行形で6人の男達とYouTubeをしているし、YouTuberの知り合いにも男性が多い。

でも誰も選ばずに遥輝を選んだのは顔とかプロ野球選手やからとか、年俸が高くて経済的にも余裕があるからとかそんなのやない。

『そのままの遥輝が好きなんだよ。札幌と岡崎で遠距離になっても乗り越えられると思ってる。ほんまは喫煙者嫌いやけどタバコ吸っててもええし、性格に難があっても遥輝が好き』

「……待って、A、タバコ嫌いなん？ほんで俺の性格に難があるって思ってたん！？」

あら、口が滑っちゃった。

『だってタバコって臭いやん。体にも悪いし。あと普通の人は連絡なしに突然幼馴染の家に押しかけて来ないと思う』

「そうやんなあ……」

自信を喪失していた遥輝はますますしょげる。今日の朝、涼しい顔をして告白してきたやつと同一人物とは思えない。

『普通の子やったらそんな男、すぐ見切り着けるやろうけど、残念ながら心から惹かれちゃってるみたい』

喫煙者は無理。普通の人と付き合いたい。遥輝と再び出会うまでの密かな願いは見事に砕かれた。

『そっちこそ責任取ってよ。自信持って私と一緒におって』

「……当たり前や。じゃあさ、」

目を輝かせた遥輝はもういつも通りだった。

「灰皿、準備してくれる？」

『調子乗んな。しません』

「ダメか……」

ほんまにもう……

『人に漬け込んだらあかんっておばちゃんに習ったやろ？』

「そうやけど……、めちゃめちゃ吸いたいねん……」

こういう所があかんねん。話聞いてたんかな？惚れた弱みで受け流している私も私なんやけどさ。

『あんまり言うと遥輝帰った後に不倫する』

そんなのできっこないけど。

「あかん！それだけはあかん！！」

でも遥輝は間に受けたのか、ごめんなさい、と1週間の禁煙を改めて誓っていた。