春色列車。３

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忠義くんに、
大切に触れられている時だけは、
絶望の中にいても、
幸せを感じる事が出来る。



最後の瞬間まで、
彼の彼女でいたい。

当たり前の、どこにでもいる、
恋人同士で。


私はその時、この温かい手を離せるのかな・・・









退院の日。

急遽、遠方に、
学会に行かなきゃいけなくなった忠義くんの代わりに、
朝から章ちゃんが迎えに来てくれた。


看護師さんとリハビリの先生に見送られてやって来た駐車場。

見覚えないおっきな車の前で、
章ちゃんが押してくれてた車椅子を停めた。


「じゃじゃーん。
これが俺の新車やで！
ライブハウスのオーナーのお古やけどな。
なかなかええやろ？
スライドドアやし、めっちゃ荷物乗るし、
なかなか便利やねん」


得意げに披露してくれたけど、
あんまり章ちゃんっぽい車じゃない。

車椅子も乗るように、
私のためなのかな、って、
ちょっと胸が痛くなる。


「うん。すっごいおっきいね。
見た目、ちょっといかついけど・・・」


「オーナー、元ヤンやからな。
そこは、しゃあないわ。
さっ、自由のない入院生活とはおさらばやで。
どっか寄りたいとこあったら言いや」


章ちゃん、妙に張り切ってるんだ。


「ありがとね、章ちゃん。
迎えに来てくれて」


「水くさいなあ。
当たり前やろ？
礼なんかいらんわ」


章ちゃんが、車椅子の私を、
抱き上げようとした時。


誰か、足早に近付いて来る足音が聞こえた。


振り返ったら、それは、忠義くんのお父さんで・・・


目が合うと、
困ったような、気まずい顔をして、

少し離れた場所で、立ち止まった。


「Aさん、退院、おめでとうございます」


「ありがとうございます。
あの、立替て頂いた入院費は、必ずお返しします」


「それはもう、大丈夫やから。
その事やなくて・・・」


お父さんの言いたいことは、分かってるの。


だけど、はっきり言葉にするのは、
お互いに、悲しいだけ。


「大丈夫です。
忠義さんとは・・・
もうすぐ、終わりにします。
ご心配なさらないで下さい」


「・・・申し訳ない。
情けないけど・・・
忠義はこの病院の大事な跡取りやから。
理解して頂けて、心から感謝します」

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