3月25日11:21 ページ36
「買い被りすぎだろ」
そう鼻で笑ってもAは「そんな事ありません」と答える。
俯く表情は顔に掛かった髪で隠れて窺い知れなかった。
「それからも何度か見かけるようになって…ここに来るお客様にも銀さんの話を聞くこともあって。だから私は知っているんです。銀さんが、優しくてこの町の人から本当に慕われてるって」
「なんか…そう言われると照れ臭ェな」
「でも、本当のことですよ。私もこうして銀さんとお話が出来て嬉しい。私もこの町に住む一人として銀さんを慕っていますから」
顔を上げたAが笑う。
心底嬉しそうに顔を綻ばせるAに銀時は何も言えなかった。
言葉が喉奥に詰まって、何をどう吐き出せば良いのかも分からず、ただ眩しいばかりの笑顔を見つめる。
「Aちゃんはさ…何でこの町に来たんだ?」
口を突いて出たのは聞くつもりのなかった問いだった。
流れ者ばかりのこの町で行き着いた理由を聞くなど無粋であると知っていたはずなのに、どうしても知りたいと思った。
初めて見たときから感じていた言葉に出来ない気持ちがそうさせたのかも知れないし、ただの興味本位だったのかも知れない。
案の定、Aは困ったように笑った。
「どうしてそんなことを聞くんですか?」
「何だろうな…知りてェのかも、Aちゃんのこと」
「そんな言い方ずるいです」
「分かってるよ、俺はずるい」
Aは膝の上に置いた手をぎゅっと握って唇を噛み締めた。
あぁ、聞かなきゃ良かった。
困らせるつもりなど無かったのに、困らせるだけだと知っていたのに。
言ってしまえば取り返せない言葉に後悔して、銀時はAから目を逸らした。
「……探している人が、居たんです」
「え…?」
「すごく、大切な人を……探して、それで…ここに」
「探していた、っつーことは見つかったのか?」
何も言わずAは小さく首を振る。
季節外れの風鈴の音が二人の間をすり抜けた。
ちりん、ちりんと控えめな音を鳴らすそれが今だけは何より頼りになった。
あまりにも心痛な沈黙だったのだ。
「俺が探してやるよ、頼まれりゃ何でもやるのが万事屋だからな」
「いえ、いいんです」
「でも…」
「もう居ない人なので、見つかるはずが無いんです」
その言葉に銀時は息を呑んだ。
それが何を意味するのか分かってしまって、尚更こんな事を聞いた自分を恨んだ。
「だから、私はこれでいいんです」
そう笑うAは酷く悲しそうだった。
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - えだまめンヌ。さん» 心温まるメッセージありがとうございます!私生活との兼ね合いで中々こちらにお邪魔できない状況が続いていますが、えだまめンヌ。様の言葉を励みに頑張っていきたいと思います〜! (2020年6月20日 21時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - ↓「作品だったとは」の後に「…」を入れるの忘れてしまい変な文章になってしまいました。地味に地味ーに誤字っちゃいました笑すみません! (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - こんなに色々考えさせられる作品だったとは軽い気持ちで読んだのですが、もう完全にハマっちゃいました。応援しています!!長文失礼致しましたm(_ _)m (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - けれど、ここにきて予期せぬ展開ばかり起こっていて、ん?ん?となんとか自分なりに考察しながら読み進めています笑どんな結末になるんだろう…!?最後に話が1つに繋がってスカッとなる瞬間がくるのを今から待ち焦がれています! (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - えええ…。とってもとっても続きが気になります!!初めは本当に「なんじゃこりゃ?」ってなって、あとがきを読んでましろさんにしめしめと一本取られていたとわかったときは少ーし腹が立ちました笑 (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2019年5月26日 21時