3月23日10:42 ページ28
人気のない廊下を進んで高杉達のいる道場の前で足を止めた。
「そこは違ぇ。脇腹を叩いて相手の動きを封じるんだ」
「はい」
真剣に剣術を習っているらしい子ども達は銀時がいることに気付かない。
さほど興味も無かったが、真剣に教える高杉の様子に銀時も黙ってそれを見つめていた。
「ほら、腕が曲がってらァ。もう一度やってみろ」
高杉は子どもにも容赦がない事を知っていた。
だからなのか、あんなに賑やかだった子ども達も誰一人不真面目な様子はなく、真剣に竹刀を振っている。
向いていないと、いつか言った気がしたが案外そうでもなかったのだと銀時は小さく笑った。
桂達がいる部屋も同じだった。
様々な性格の子どもはいるが、結局どんな子どもを相手にしても十分すぎるぐらい「先生」をやっている。
多分、自分が気付かなかっただけで、こういうことが向いていたのだろう。
知ろうとしなかっただけなのだ。
暫くそんな様子を眺めた後、銀時は静かに部屋の前を通り過ぎた。
廊下を進んで行き止まりになったその場所に妙に静かな部屋がある。
確か、物置部屋だったはずだ。
「……。」
無意識だった。
部屋の扉に手を伸ばして、ひやりとした取っ手に触れる。
何故だろう、この部屋の中にだけは入っていけない気がした。
否、この部屋の中に関する記憶が全く無かった。
子どもの頃、村塾の中で隠れんぼをした時だってこんな絶好の隠れ場所であるはずなのに入った記憶が一切ないのだ。
それなのに、この部屋が物置部屋であったという認識だけは確かにある。
何故、入ったらいけなかったのか。
確か松陽に「入ったらいけない」と言われていたのだ。
入ったら出て来られなくなる。
頭の中に浮かんだのは、そんな言葉だった。
この部屋に一度でも足を踏み入れたら、戻って来られない。
一体、どこから戻って来られないというのか。
ほんの少しだけ興味があって指先に僅かな力が入った。
恐怖より好奇心が勝った瞬間だったと思う。
けれども、物置部屋であるはずなのにこの部屋のもっと奥、深い場所から鬱々とした雰囲気を感じて開けてしまうのを躊躇った。
それこそ、本当に戻って来られなくなってしまうような気がして。
「銀時、何か食べますか?」
そんな松陽の声がどこからか聞こえて、我に返った銀時は「握り飯」とだけ答えてその場を立ち去った。
銀時が思わず離した指先は部屋の扉を掠め、ほんの少しだけ開いた扉の隙間からは静かな空気がこぼれ落ちていた。
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - えだまめンヌ。さん» 心温まるメッセージありがとうございます!私生活との兼ね合いで中々こちらにお邪魔できない状況が続いていますが、えだまめンヌ。様の言葉を励みに頑張っていきたいと思います〜! (2020年6月20日 21時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - ↓「作品だったとは」の後に「…」を入れるの忘れてしまい変な文章になってしまいました。地味に地味ーに誤字っちゃいました笑すみません! (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - こんなに色々考えさせられる作品だったとは軽い気持ちで読んだのですが、もう完全にハマっちゃいました。応援しています!!長文失礼致しましたm(_ _)m (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - けれど、ここにきて予期せぬ展開ばかり起こっていて、ん?ん?となんとか自分なりに考察しながら読み進めています笑どんな結末になるんだろう…!?最後に話が1つに繋がってスカッとなる瞬間がくるのを今から待ち焦がれています! (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - えええ…。とってもとっても続きが気になります!!初めは本当に「なんじゃこりゃ?」ってなって、あとがきを読んでましろさんにしめしめと一本取られていたとわかったときは少ーし腹が立ちました笑 (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2019年5月26日 21時