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3月23日10:34 ページ27

松陽の言葉に鼻をフンと鳴らしながら湯呑みに口を付ける。
柔らかく鼻腔をくすぐる緑茶の香りにほっと息を吐いた。

「晋助と小太郎が言っていましたよ、いつまで面倒をかける気だ、と」
「別に頼んでねぇし、放って帰りゃ良かったろ」
「放って置けなかったからここに連れて来ているんでしょう」

昨晩、飲みに行った居酒屋は万事屋と松下村塾の間にある。
位置的に村塾の方が万事屋より少しばかり近かったから2人は酔い潰れた銀時をこっちに連れて帰って来たのだろう。
けれど、理由はきっとそれだけではない。

「彼等なりに君を心配しているんでしょう。任せられる人が出来るまでは、とでも思っているのでは?」
「イヤイヤ、あいつらだって独り身じゃねぇか」
「でも、帰る場所は賑やかですからねぇ」

そう言って松陽は目を細めて笑う。
その目の先には銀時、そして子ども達が見えているのだろう。
銀時が「余計な世話だよ」と再び湯呑みに口を付けた。

「彼等はきっと君がここを出て行ったのを納得しているけれど、本当のところ寂しいのかも知れませんよ」
「はぁ……んなこと思う奴らにゃ見えねぇけど」
「私は寂しいですけどねぇ」

そう言って小さく笑う松陽から目を逸らして「そーかい」と呟いた。
湯呑みの底は既に見えている。

庭を挟んで向かいの部屋で教本を読む子ども達に目を向けて、いつかの自分を思い出した。
教本なんて内容も殆ど覚えていないけれど、松陽が話した内容だけはいくつも覚えている。
今はそれを桂が話しているようで、真剣に聞いている子ども、いつかの銀時のように寝ている子ども、色々なことが駆け巡っては胸の底にすとんと落ちた。

「別に、あんた達に会いたくない訳でも一緒に居たくなかった訳でもねーよ。寂しいって感じる距離でもねーし」
「そうですね、いつでも会えますからね」

松陽は銀時から空になった湯呑みを受け取ると「片付けてきますね」と言ってその場を立ち去った。
がらんとした和室の中で伸びをして銀時も立ち上がる。
今は桂の話を聞いている子ども、高杉に剣術を習っている子ども、誰一人として廊下や庭には姿を見せない。

このまま二度寝をしても良かったが、完全に目が覚めてしまったので桂や高杉の様子を見てやろうと思ったのだ。

相変わらずじりじりとした日が照っている村塾の中を我が物顔で進む。
どこに何があるのか、かつてここで暮らしていた銀時が知らないはずなどなかった。

3月23日10:42→←3月23日10:28



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設定タグ:銀魂 , 坂田銀時   
作品ジャンル:恋愛
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - えだまめンヌ。さん» 心温まるメッセージありがとうございます!私生活との兼ね合いで中々こちらにお邪魔できない状況が続いていますが、えだまめンヌ。様の言葉を励みに頑張っていきたいと思います〜! (2020年6月20日 21時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - ↓「作品だったとは」の後に「…」を入れるの忘れてしまい変な文章になってしまいました。地味に地味ーに誤字っちゃいました笑すみません! (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - こんなに色々考えさせられる作品だったとは軽い気持ちで読んだのですが、もう完全にハマっちゃいました。応援しています!!長文失礼致しましたm(_ _)m (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - けれど、ここにきて予期せぬ展開ばかり起こっていて、ん?ん?となんとか自分なりに考察しながら読み進めています笑どんな結末になるんだろう…!?最後に話が1つに繋がってスカッとなる瞬間がくるのを今から待ち焦がれています! (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - えええ…。とってもとっても続きが気になります!!初めは本当に「なんじゃこりゃ?」ってなって、あとがきを読んでましろさんにしめしめと一本取られていたとわかったときは少ーし腹が立ちました笑 (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2019年5月26日 21時

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