春に咲く向日葵【銀魂】

3月22日09:12 ページ21

至って普通の朝だった。
鳥のさえずり、襖から差し込む朝日、使い古した煎餅布団、何一つとして昨日と変わらない。
けれど、どこか言葉に出来ない違和感だけが曖昧な形をして銀時の胸の奥に突っかかっていた。

「……なんかヤベェの食ったっけ」

甚平を持ち上げて腹を掻き毟り、昨晩食べたものを思い出したが、どれもこれも特段気になるようなものはなく、結局この違和感はあっという間にどうでも良いものへと変換された。

今日は何の予定もない。
ここのところ仕事という仕事はなく、下の階に住むお登勢から家賃の催促をされるぐらいしか1日の出来事がなく、まぁそれなりにフラフラと生きている。
流石にそろそろ仕事が舞い込んでこないとマズい気もするが、入ってこないものは仕方ないのだ。
着流しに袖を通しつつぼんやりと窓の外を眺めた。

「クッソ平和…」

窓際で意味もなくくちばしをパクパクとさせる雀を見ながらぼやいた。
清々しいほどに穏やかである。
町も、ターミナルも、どこもかしこも全て今まで通りだ。

布団を適当に部屋の隅に寄せ、これまた適当に顔を洗い、そしていつも通り結野アナが出ている朝の報道番組をつけて適当に作った朝食を並べた。

『今日は3月では類を見ない暑さになりそうです〜。至るところで夏日を記録するでしょう』

これか、違和感。
ようやくモヤモヤと感じていた違和感の正体を掴み、銀時は納得したように頷いた。

「なぁ、やっぱ今日暑くなるみてぇだし…昼飯はさっぱりしたもんがいい…んじゃ……」

言葉半ばに銀時は口をつぐんだ。
当然だが、この部屋には銀時以外誰もいない。
無論、今の言葉は銀時以外の誰の耳にも届くはずのない言葉である。

暑さにやられたのだろう。
なにせ、つい先日まではいつも通りの3月の気温で、何一つとして違和感など無かったのだ。
だから、きっと寒暖差に身体が錯覚を起こしているのだ。

『ところによっては、桜と向日葵のコラボレーションなんかも期待できますよ〜』

冗談じゃねぇよ。
ガチャガチャと食器を片付けながら銀時は溜息を吐く。
この暑さで既にここまで冷静さを欠いているというのに、これ以上暑くなってしまった終いには夏には精神がイカれている可能性がある。

洗い終わった食器を手拭いで拭きながら銀時は再び溜息を吐いた。

「この家、こんな広かったか……？」

思わず口を突いて出たその言葉は、その意味を考える前に銀時の中から消えてしまった。

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