検索窓
今日:6 hit、昨日:26 hit、合計:23,813 hit

ページ39

「…それで、思ったんだ。私は彼と友達になりたい。それで、君や独歩たちと勉強したり遊んだりしたいんだ。喧嘩だって、時には仲違いだってするかもしれない…でも、一緒にいたいんだよ」

私は上体を起こして、治と目を合わせた。
…治は暫しの間、何も喋らなかった。そして、私に向けた事のないような目をしていた。私は先刻の気持ちが霧散しかけているのを感じた。彼の考えている事が、判りそうになかったのだ。

やっと、治が口を開いた。「…Aは」

「?」

「軽蔑する?僕、中原中也が大嫌いなんだ。でも君は彼が好きだ。
君の好きな人を、僕は到底好きになれそうにない。そんな僕でも、許してくれる?」

…。私は、治に向かって手を伸ばす。叩かれるのかと思ったのかもしれない、彼はギュッと目を瞑った。

「…治だって大分莫迦じゃないか」

私は叩いたり、ましてや抓ったりもしなかった。只、今度は私が彼の頭を撫でてやりたかったので、そうした。彼は驚いたように目を丸くしていた。

「太宰治は中原中也が嫌い。それでいいじゃないか!好きな人の好きなものを、自分も好きになる必要なんかないんだ!君の事を軽蔑したりなんか、するもんか!」

そうだ。例えば、犬が嫌いな事は問題じゃない。問題はその嫌いな犬に対してどうやって接しているかなのだ。

 「…はは。やっぱり君って奴は…」治はそれ以上先を告げる事をしなかった。
彼がその時私に見せた表情は、笑っているようにも泣いているようにも見えた。

 私たちはまた笑い合った。きっとこの日だけ、福の神たちがこの病室に寝泊まりしていたからだろう。時の流れを忘れた私たちは漫談を続けた。日がすっかり暮れた頃、私を呼びに来た看護師が悲鳴を上げて腰を抜かすまで。


 今日になって突然目を覚ました太宰少年に、癒者も首をしきりに傾げていたけれど、私たちは揃って口を閉ざした。けれど、仕事を終えて飛んできたらしい森さんは、まるで凡て判っているかのように笑って私たちの頭を撫でてくれた。

 今日、私たち二人の中で秘密が出来た。

 私たちはどこまでもお揃いで、どこまでも深く繋がっているんだ、って。

第二十九章 徒花 壱→←漆



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (29 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
42人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

サラ(プロフ) - しぇるふぃあ。さん» こんな細かい描写にも気づいて頂けるなんて物書き冥利につきます!消せませんよ、でもここでは説明し切れないので後日改めて説明させて頂きますね! (2018年12月13日 20時) (レス) id: 4e09bde857 (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - しぇるふぃあ。さん» お久しぶりです。しぇるふぃあ。さん、すごく読んで頂いているようなのでとても嬉しいです、ありがとうございます。 (2018年12月13日 20時) (レス) id: 4e09bde857 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。 - ところで夢主ちゃんは前世が国語教師なのですよね?だったら41pに出てくる安吾さんの名前は知ってるはず…と違和感を覚えました(・・?) はっもしや伏線?ネタバレに触れるようでしたらこのコメントはそっ消ししてくださいm(_ _)m これからも陰ながら応援してます!! (2018年12月13日 19時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。 - お久しぶりです!しばらく顔を出せなかった間にすごく進んでて一気読み不可避でした…あんまり好きポインツ語るとコメ欄ネタバレになるので控えますが仲直り本当に良かったです(ネタバレ) (2018年12月13日 19時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - 紫苑さん» 応援ありがとうございます!頑張らせていただきます! (2018年12月2日 23時) (レス) id: 4e09bde857 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:サラ | 作成日時:2018年9月20日 12時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。