【d!】恋って言うから、愛に来た【短中編集】

＊ ページ10

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「よし」
「いや、よしじゃないから」


　満足げなゾムに私は置いて行かれっぱなしだ。いや本当に何。
　よいしょ、とゾムが仰向けに戻ったので再び目線が合う。お前本当にわかってないんかと語っているような瞳にいや、わからんしと目線で言ってみる。伝わっているのかは不明だ。
　ゾムがひとつ溜息をついた。いや、ため息つきたいのは私なんですけど。と言いかけて、ゾムが珍しく真っ直ぐに見つめてくるものだから、口を噤んだ。


「あいつ、雄やんか」
「え、うん」
「猫だろうが、自分の彼女が他の男にとられんのは彼氏としては嫌やねん」
「…え？」


　至極真面目な顔。反して、私は頬が熱くなってきた。まさか。


「愛しの彼女に会いにきたら他の男に取られとんぞ？ムカつくに決まってるやろ」
「え、あの」
「あいつ、我が物顔して独占しよって。Aの膝は俺のもんやのに」


　ちょっと待って。


「おまけにあいつに指舐められとるし」
「ちょ、ぞむさん」
「A舐めてええのは俺だけやし、噛みつくのも俺の特権やから甘噛みしだしたら、しばいたろか思っとったわ」


　待って、ほんとに。


「お前もやで。お疲れな彼氏放って、猫構いよって」
「それは、」
「癒されとうて来たのに意味ないやん」


　あの、本当に。


「それ以上は勘弁してください…」

　火照りだした顔を隠すように両手で覆う。下からは確信犯のくつくつと笑う声がする。この掌を退けたら、意地悪く笑うあの顔があるんだろうな、と思いながらも退かす気は一切無い。


「せやから、」


　膝の上で動く気配がする。退かす気はないけど、気になって掌の隙間から覗き見ると、ゾムが両腕を私の腰に回して顔をお腹へと埋めてきた。そのまま擦り寄るものだから擽ったくて仕方がない。


「せやから。今から俺に構ってえや、な？彼氏の疲れ癒すんは彼女の仕事やで」


　くふり、緑の瞳を弓なりに細めながら笑う顔に、胸がきゅん、と疼いてしまう。あぁ、本当、ゾムの甘えん坊には滅法弱い私は、この時点でもう負けを認めるしかないのだ。


「…はいはい、りょーかいしました、彼氏さん」


　掌を顔から外して、そのまま柔らかな髪を撫でるとその下で擽ったそうに笑う声がした。
　結局、不機嫌だったのもあの白猫が原因で。決して嫌われたわけではなかったことに、ちょっぴり安堵した。こんなヤキモチ。…たまには悪くないかな、なんて。

　

　でも、指舐めるのはやめて！それは心臓に悪いから！

後日、お揃いの食器を買いに行くカップルが目撃された　／　shp→←＊

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