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息が切れて呼吸するのも苦しくなった頃、Aと呼ぶ声と共に今まで引っ張っていた腕に引かれた。私はようやく足を止めた。
周囲を見れば、ショッピングセンターの景色から駅前の光景へ。時間をおいてやっと状況を飲み込んだ私は、先ほどの言動も勿論思い出すわけで、途端に血の気が引いた。
「ご、ごめん!さっきはあんな、真似して」
「いや寧ろありがとうな。助かったわ」
めっちゃしつこくて困ってたんや、とトントンは見慣れた苦笑いをその顔に浮かべた。それは本当に困惑しているようには見えなくて、私はいつの間にか詰めていた空気をそっと吐き出した。
「それで、な。…その、さっき言ってたの」
「…えっと、」
今度は気まずそうに視線を投げかける彼に、私は言葉を詰まらせる。勢いに任せて告白まがいのことを言ってしまった手前、なんていえばいいのかわからないのだ。あれは紛れもない本心で否定をする必要もない。でも雰囲気も何もない場所で言ってしまったのもなんだか悔しくて俯いた。
沈黙が私たちの間に落ちる。嗚呼、本当に最悪だ。目頭が熱くなって、堪えるように目を瞑ろうとしたとき。ぽん、と私の頭に何かが触れた。
顔を上げると、優しく微笑むトントンが私の頭を何度か撫でていた。
「あ、の」
「…今日は誘ってくれてありがとな、めっちゃ楽しかったで」
「でも、上手くいかなかったのに」
「俺の為に色んな事考えてくれてたんやろ?Aが俺の事考えててくれてた、それだけで嬉しいんや」
夕日に照らされるはにかむ顔にどうしようもなく胸が締め付けられる。苦しくて、でも嬉しくて。胸元のぬいぐるみを抱き直した。
こんな私でも、優しく包み込むように笑って助けてくれる。そんな彼だから、私は。
頭から離れた手を、ぬいぐるみを抱えていない手で掴む。驚きで見開いた赤を見つめながら、ぎゅと握りこんだ。騒ぐ心臓の音が繋いだ手を介して聞こえているのではないかと思った。緊張で震える唇を一回引き締めてから、口を開く。
「好きです、付き合ってください」
真っ直ぐ射抜いた赤は瞬間さらに大きくなって、次に優しく細められた。繋いだ手を逆に引っ張られ、豚さん諸共大きな腕の中へと閉じ込められる。ダイレクトに感じる体温により一層心臓が高鳴った。
「それ言うなら結婚を前提にぐらい言ってもええんやで?」
耳元に落とされた甘い低音に、私は思わず笑いながら胸元に顔を埋めた。
「じゃあ、今度は恋人から始めませんか」
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ももね(プロフ) - りんごさん» ありがとうございます!喜んでくださったようでうれしく思います。私自身も「お友達から始めませんか、」は特にお気に入りのお話でしたので続編を書くのはとても楽しかったです!この度はリクエストありがとうございました! (2020年5月14日 22時) (レス) id: 2fa0c60296 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - ももねさん» ももね様!リク消化ありがとうございます!もう好きすぎて言葉に表せないくらい好きです!ももね様!本当にありがとうございました!愛してます! (2020年5月13日 22時) (レス) id: ed57538bc3 (このIDを非表示/違反報告)
ももね(プロフ) - 天真爛漫さん» ありがとうございます!天真爛漫さまのご希望に添えたなら幸いです。今後ともよろしくお願いします! (2020年5月8日 10時) (レス) id: 2fa0c60296 (このIDを非表示/違反報告)
天真爛漫 - 作者様、素敵な作品を書くてくださり、ありがとうございました!! (2020年5月6日 21時) (レス) id: 545c0410b5 (このIDを非表示/違反報告)
ももね(プロフ) - りんごさん» はじめまして!コメントありがとうございます。ありがとうございます…!好きなフレーズを題名にさせてもらいました!^^リクエスト承りました!執筆が完了次第投稿させていただきます。よろしくお願いします! (2020年5月3日 23時) (レス) id: 2fa0c60296 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ももね | 作成日時:2020年4月13日 19時