カースト1位《桃》 (ページ4)

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３話ページ4

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「な、なんですか」
「……なんだ、可愛いじゃん」

(……へ)
　何かの聞き間違いだろうか。可愛い。確かにこの人はそう言った。私の眼鏡で遊びながら「イメチェンでもしたら？」なんて軽く勧めてくる彼の言葉はもう右から左だ。

「ねえ、名前は？」
「あ、え、Aです」
「Aね。うん、覚えた」

　明日も来るよね？また会おうよ。こちらの返事を待たず、一方的に別れを告げて彼は行ってしまった。まるで嵐のような人だった。……可愛い、なんて私の勘違いだよね。うん、きっとそう。立ち上がってブンブン首を横に振った。現実に帰ってこい、A。私が可愛いなんて、そんな世界線は存在しないんだから。早く水やりを済ませてしまおうと、ホースを握り直した。

(……あれ、そういえば私の眼鏡は？)

「おはよ～！ ……あれ、A眼鏡どうしたの？」

　始業のベルが鳴るほんの少し前、ようやく親友は登校した。私のチャームポイントの一つである眼鏡がなくなっていることは誰の目から見ても明らかだった。私は今朝自分の身に起こったことを簡潔に説明した。

「ああ……なんか京本先輩って人にとられちゃった」
「え！？あの京本先輩に！？」

　聞けば彼はこの学校に伝わる三大美人と呼ばれる称号を持つイケメンのうちの一人なのだと言う。キラキラと輝いた瞳ですごいじゃんと肩を叩いてくる親友とは裏腹に、私はと言うと微妙な気分だ。カースト1位の称号を持つ先輩。私が関わるなんて場違いにも程がある。
　そこへガラガラと大きな音を立てて入室する森本くん。遅刻ギリギリだ。ドア近くの親友の席にいた私と目が合うと、丸いそれをさらに丸く見開いた。

「おっはー……あれ、黒石さん今日眼鏡ないんだ。雰囲気変わっていいんじゃない？」

　あの最上位が私に声をかけた。やばい。今日は何か夢でも見ているみたいだ。

「ほら、やっぱり似合ってるんだって。前から言ってるけど、この際イメチェンしたら？」
「うーん、このスタイル気に入ってるんだけど、折角だしそうしてみようかな」

　普段なら親友にそう言われたところで軽く受け流して終わりだった。他人に勧められても「そうしようかな」なんてこと絶対に思わなかった。だけど、今日は違った。

『なんだ、可愛いじゃん』

　消そうと試みても脳裏から離れてくれない京本先輩のこの言葉が、私を大きく変えてくれる気がした。