やわらかな午後に遅い朝食を【短編集】 (ページ5)

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背中を預けて * Ren.M ページ5

蓮｢A～｣

フローリングにクイックルワイパーをかけていると、少し遠くから私を呼ぶ声。どうやら、さっき｢髪切るわ｣と言って消えてった洗面所から。

｢はーい？｣

クイックルワイパーを置いて洗面所へ行くと、バリカン片手にパンツ一丁でお風呂のイスに座る蓮の姿。

｢なに？(笑)｣
蓮｢何ちょっと笑ってんの？｣
｢いやごめん、なんか面白くて｣

彼が自分で髪を切ってるのは知ってるし、バリカンとハサミをわざわざもう1セット買ってうちに置いているくらいには、うちでも散髪をしてる。でもその途中に呼ばれることは今まであまりなかったから、正直見慣れない光景。

この光景を全世界に発信した彼だけど、実際のところはあんな綺麗なもんじゃない。あの動画に映ってない彼の周りは切った髪でいっぱいだし、細かい毛が体中にくっついててどれだけ払ったってとれない。目に入ったって言って痛がってるのも珍しくないし。そういうわけでお風呂場パンイチスタイルに至る。あ、｢顔が綺麗｣っていう話は今は置いといて。

蓮｢ちょっと後ろ切るのやって｣
｢は？私？｣
蓮｢他に誰がいんの｣
｢私がやるの～？どうなったって知らないよ｣
蓮｢いいよ(笑)｣
｢やだ、アイドルをキズ物にできない｣
蓮｢キズ物って(笑) 大丈夫、髪なんてすぐ伸びるから｣

どうやら襟足がうまく整わないらしく、私にやってほしいらしい。いくらセルフカットしてるとはいえ、私にそんな大役任せるなんて。

蓮はすごく努力家だし、アイドルとしての心意気がすごい。ほんの一瞬でもカメラに抜かれるときは絶対に逃さない。そんな彼なのに素人に襟足任せちゃうの、そういうところの感覚はアイドルらしくない。大胆不敵というか、真っ向勝負というか、ワイルドというか。まあでも、そういう男くさいところに私もやられたんだっけな。