やわらかな午後に遅い朝食を【短編集】 (ページ3)

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不在の存在 * Ryohei.A ページ3

｢ただいま～…｣

仕事で疲れた体を引きずって帰宅。
人気がない我が家に少し違和感を覚えたけど、思い出した。今日亮平は遅くまでリハーサルだって言っていた。朝早くから夜遅くまで仕事をしてるなんて、私よりもずっと大変なんだ。なのに弱音は吐かないし勉強にも余念が無いし、完璧人間だなあ、とつくづく思う。

今日はこのままお風呂に入っちゃおう。リビングの床に荷物と上着を置いてお風呂場へ。お湯をためる間、洗面台ですでに落ちかかってるメイクを落としたらちょっとスッキリした。
鏡に映る疲れた顔をしたすっぴんの自分を見て、｢メイクした顔も綺麗だけど、すっぴんでも可愛くて好きだよ｣という亮平の言葉を思い出して1人で恥ずかしくなった。

湯船に浸かると疲れた体がほぐれて気持ちがいい。気を抜くとここで寝ちゃうかも。

前、同じように仕事で疲れた日、湯船に浸かったままうたた寝をしてしまったことがあった。扉を挟んだ向こうからの｢A？大丈夫？｣という声に驚いて浴槽の縁に頭をぶつけた私に、彼は呆れて笑ってたっけ。｢もう出ておいで｣って笑いながら言って、出たあとは髪の毛を乾かしてくれたっけ。髪の毛を乾かしてもらいながらまたうとうとし始めた私を、｢寝るならこっちで寝て｣ってベッドに連れて行って腕枕してくれたっけ。

お風呂を終えてリビングに入るとさっき自分が置いた荷物と上着が目に入る。亮平がいたら、｢もう、しょうがないな～｣なんていいながら片付けてくれたかもしれない。なんだかんだいって彼は優しいし甘い。

今日やり残した仕事を少しだけやろうかな。いくら疲れてるとはいえ、やらなきゃいけないことを少しでも消化しておきたい。今やらないと、のちのち自分の首を絞めることになるかもしれない、そうなるのが嫌だから、少しだけ。

亮平がいたらきっと｢だーめ、もう寝るよ｣って言うだろう。この疲れ具合はダメだって、亮平はよく知ってる。私の心配性もよく知ってるから、多少渋っても動じない。｢おれも疲れたから一緒に寝よ？｣って言う。そう言ったら私は断れないことも、彼は知ってる。

でも今日彼はいないから、少しだけ仕事をしてから寝よう。子どもの頃、お母さんがいない時に冷蔵庫のチョコを一つこっそり食べるような、そんな気持ち。