やわらかな午後に遅い朝食を【短編集】 (ページ18)

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さっきから｢ちょっと寝る｣準備をしてる彼女を、リビングのカーペットに大の字になって目で追っている。寝たらまた仕事に行かなきゃいけないけどちゃんとメイクを落として洗顔をして丁寧にスキンケアをしてる。正確にはそういう音が聞こえる。リビングから洗面所は見えないからね。

彼女は頭がいいし大人だから、僕が拗ねてることなんてわかってる。僕が拗ねたってどうしようもないことをわかりながら拗ねてることも。

｢じゃあとりあえず寝るね、｣

どうやら寝る準備が終わったようで、すっぴん部屋着姿の彼女が洗面所から歩いてきた。ほんとなら飛びつきたいところだけど、僕の中のちっちゃなプライドがお腹の中でぐるぐるしてる。こういうときに子どもになり切れないし、大人みたいに彼女の忙しさを受け止められる包容力もない。なんて中途半端なんだろう。

｢ラウ、｣

一度は寝室に消えた彼女だったけど、また寝室のドアを開けて僕を呼んだ。

｢ちょっとだけど、一緒に寝てくれない？｣

僕の隣にあるローテーブルに目をやりながら少し笑ってそう言った。

ラ｢、いいよ。｣

2人で一緒にベッドに入る。彼女は丁寧に僕の体に掛け布団を掛けてくれた。その腕を引き寄せて自分の体に回し、僕は自分の腕を彼女の背中に回した。

｢ラウのにおい｣

僕の腕の中でたっぷり息を吸って小さく笑う彼女がかわいくて、目の前にある彼女の髪にひとつキスを落とした。

僕の好きな人はいつも僕より一枚上手で、僕の考えてることなんて全部お見通しなんだ。それに比べて、僕は彼女に大したことはできてない。あーなんで僕は子どもなんだろうって思うときもあるけど。でも彼女のふわふわした笑顔を見ると、考えるのがめんどくさくなっちゃうんだよね。

僕にできるのは、彼女の笑顔を願うこと。できることなら、隣でずっとその笑顔を見て、守っていきたい。僕らしくないな、とは思うけど、ちょっとは大人っぽいんじゃないかな。

ラ｢Aちゃん、おやすみ。｣

僕の好きな人が、よく眠れますように。
今日も、明日も、明後日も、これから先のどんな日も。彼女が健やかに、穏やかに、眠れますように。

君の心臓の鼓動を感じて