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「そんなことを芹沢さんが云ってたのか?」
「ん、ああ……」
原田の問いかけに、井吹は生返事をする。
彼は今、原田、永倉、沖田、斎藤、藤堂、頼と共に、中庭に集っていた。
「あの人、俺たちのことがとことん気に食わねえみたいだな。やっぱ本庄宿での騒ぎを根に持ってんのかな」
藤堂がぼやく。
耳慣れない言葉が気になるのは人の性で、井吹は思わず、「本庄宿?」と尋ねた。
「え? ああ、ええと……」
藤堂も、うっかり口を滑らせたということに気づき、言葉を濁す。
そんな彼に沖田が、「話してあげなよ。一くんたちも知らないことだし」と云った。
「ああ。芹沢さんたちと一緒に上洛する時、近藤さんは道中先番宿割りをやっててさ」
「道中先番宿割り?」
藤堂の言葉に、井吹はまた聞き返す。
知らないのだから、仕方がない。
「先回りして、浪士組みんなの宿の手配をする役目だ。それが、本庄宿で手違いがあって、芹沢さんの宿を取り忘れちまったんだよ。芹沢さん、冷え込みが激しいからって近くにある建物を壊して火を付けちまってさ。結局、近藤さん、芹沢さんに土下座して謝ったんだ。何とか京までは無事に来られたけど、わだかまりが出来ちまってさ」
そんな風に藤堂が話していた、同じ頃。
近藤、土方、山南は、近藤の自室で話していた。
「近藤さん。これからは、芹沢さんにああいう態度を取るのを止めてくれ」
土方の言葉に、近藤は困惑したように「ああいう……態度、とは?」と聞き返した。
「芹沢殿って呼んだり、顔色を窺うことだよ。あんたは、芹沢さんと同格の立場なんだ。何の引け目も感じることはねえ」
「私も、土方くんと同意見です」と山南。
「近藤さん。あんたァ、俺たちの大将なんだぜ」
土方が、云い聞かせるように云う。
少し考える素振りをした後、近藤は「分かった」と答えた。
さて、藤堂たちの方である。
解散する間際、頼の口元が緩んでいるのを井吹は目ざとく見つけた。
「ん? 何か良いことでもあったか?」
「いや……」
井吹の問いに否を返し、それでも頼は笑みを浮かべている。
「じゃあ、何だってんだよ?」
「……見たかっただけだ」
「は?」
「火事を……見たかったというのだ」
その言葉に、井吹は呆気に取られる。
横で、原田がやれやれと溜息を吐いた。
「此奴、火事が好きだからなぁ。何となく、こうなる気がしてたぜ」
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Chris(プロフ) - ファーストMeさん» わーいありがとうございます! こっちの作品も神様ネタありますから、待ってて下さい! (。>ω<。)ノ (2017年6月15日 13時) (レス) id: c0c9efb09c (このIDを非表示/違反報告)
ファーストMe - “刀と共に生きてきました”から来ました!この作品も凄く良かったです!!更新待ってます!! (2017年6月15日 13時) (レス) id: d48a818a0f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Chris | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/chrisinfo/
作成日時:2017年5月23日 0時