□創造主（◇） ページ6
この世界は終わりを向かえた。
気が遠くなるような歴史は人類の愚かな欲望によって幕を閉じたのだ。
きっかけがなんだったかもう覚えてもいない。
自国の利益が損なわれている、とか確かそんな感じ。
何度も繰り返されてきた過ちから結局なにも学べないまま、意味もなく強くなった兵器に世界は殺されてしまった。
辺りには瓦礫が散乱している。
人の肉体を徹底的に破壊する爆弾のせいで死体は骨さえ残らない。
有毒なガスによって、空は厚い雲で覆われている。
暗い世界にはもう、僕と彼女と瓦礫しか存在していない。
世界とも、言えないのだろう。
どうして僕らが残ってしまったのかわからない。
死にぞこないにできることなどあるわけもなく、いつ死ぬのだろうとぼんやり瓦礫に腰かけていた。
彼女と交わす言葉さえ、もう僕は持っていない。
世界から音が消えてから、色が消えてから、匂いが消えてから、幾日か過ぎたその日、僕らの居場所に唐突に光がよみがえった。
僕らは驚いて顔を見合せ、ゆっくりとそれに近づいた。
今時、歴史の教科書でしか見ないような、アナログのテレビが画面を発光させてその場所に現れたのだ。
しばらくノイズが走ったあと、プツリと音がして映像が鮮明に映し出される。
まだ美しかった自然が爆発によって消し飛んだ。
人々の悲鳴、怒号、奇声が破壊音に掻き消される。
それは、地獄の始まりの映像だった。
僕らは目をそらすこともできずに流れ続ける映像を見つめていた。彼女の長い黒髪が微かに揺れた。
やがて画面はプツリと途切れ、またノイズが走る。
テレビは発光をやめ、ゆるゆると崩れ落ちた。
映像を見終わった僕らにはなんとなく、やらねばならないことが分かっていた。
生き残ってしまった、選ばれてしまった理由がわかった。
武器をとって戦えなかった僕らは、この世界を諦めてしまった僕らは、『やり直し』を望んだ僕らは...。
「ねえ、私、あなたと一緒で良かったと思ってるの」
隣の彼女が口を開いた。
はじめて聞いた声はこの場所に不釣り合いなほどすみきっていた。
「あなたで良かったと、思ってるの」
神に選ばれた僕らは。
「だから、一緒に創りなおりましょう。」
差し出された白く美しいその手を取る。
絡めあった指先から熱が伝わってくる。
世界は僕らのやり直しを許容して、淡い光を放ちながら崩壊を始めた。
創造主となった僕らは新たな世界の神となる。
＿＿＿今度は失敗しないために過ちを繰り返す。
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作者名：ハル | 作成日時：2018年7月11日 23時
