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第十巻 ページ11

その村へと向かう道のりは、比較的穏やかなものだった。



晴天が続き、危険な目に遭うこともなく、彼らは淡々と村を目指した。



道中、薬を売ったり三味線を弾いたり、たまに占いをしたりして、各々しっかり稼ぎつつ、順調に旅は進んでいく。



……その穏やかさを少しだけ不気味に思ったのは、何故だろうか。



些細な違和感と疑念を抱きながら、紫月は竦みそうになる足を必死に前へと押し出す。



いくつかの町を過ぎ、街道を行くこと数日。



ようやく辿り着いたのは、山の麓にひっそりとある、小さな村だった。



遠目に見える村を目にした途端、紫月は思わず息を呑む。



――紅い。



村一面、紅色に染まっている。



まさか、と思いながら村に近付けば、案の定、彼岸花だった。



見渡す限り一面の、彼岸花。



田畑のあぜと言わず道端と言わず、至る場所に咲き乱れる紅い花。



「これは……」


「予想以上だな」



薬売りと浅葱が感嘆したように呟くも、紫月は何も言うことができなかった。



凛とした風情で咲く花は想像した通り、美しかった。言葉を失うほどに美しかった。



だが、それが郡をなして咲く様はどこか壮絶で、言葉にならない恐ろしさが背筋を撫でる。



目に痛いほどの紅に、ぞくりと身体が震えた。



――血の紅だ。



咄嗟に浮かんだ言葉と、ひどく現実離れした風景に目眩を覚えれば、隣に立つ薬売りがこちらを向いた。



「紫月さん? ……どう、しました」



立ち竦む紫月の顔を覗き込み、青ざめた頬に触れる。



紫月がすがるように薬売りを見上げた。



「……ここ、が?」



かすれた声で問えば、薬売りが頷く。



美しく、それゆえに壮絶さを纏う、彼岸花の村。



どこか気が遠くなりそうな、深淵を覗き込んでいるような感覚に陥る中、うなじをチリチリとした予感が駆けて行く。



「……行きましょうか」



前を向いた薬売りがそう呟いて、彼らは紅い花にまみれる村へと足を踏み入れた。

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作者名:赤青ほととぎす/瑪瑙 x他1人 | 作者ホームページ:http  
作成日時:2018年11月27日 22時

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