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去り際、相葉は、彼が悪いわけでもないのに、申し訳なさそうに眉を下げ、「先ほどはご無礼を…、誠に申し訳ございません」と頭を下げた。


大野は、彼の口元が笑みで満たされないことを、非常に残念に思った。



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「内線で【19】番につなげていただけたら…日中は、わたくしが参ります。夜間は別の者が参りますので、何かあればご連絡くださいね」



それを最後に、パタンと木製のドアが閉まる。



いち、に、さん、し…と、8つまで数えたら、遠ざかっていく足音が、聴こえなくなった。


閉まったクロゼットの扉に凭れて、ずるずるとそのまましゃがみ込む。

別にそうしたかったわけではない。立っていられなくなったためである。


(…肩に手が)


淡紫の浴衣は、うっすらと、森の香りがした。

みぞおちの辺りから、ぶるぶると細かく身体が震えていた。


(……怖かった…)


声の出ない喉に、ぐっと力を入れる。

やはり自分は、気を病んでいるのかもしれない、と大野は思った。


自分の知らないところで、気分が病に侵されているのかもしれなかった。
でないと、あのような好ましい笑みを持つ人を乱暴に突飛ばす、その説明がつかない。


怖かった、怖かったと、唱えるように思った。振り払えない怖さだった。



浴衣を羽織っただけの身体が、冷えてきていた。



それでも震えたまま、動き出せなかったので、優しい香りのするその浴衣の裾を噛んで、抱えた膝に顔を埋める。


それで少しは落ち着いた。
赤子がおしゃぶりを口に入れられて、ふっと泣き止むときと、おなじようなことをしているような気がした。




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強張っていた身体が、しだいに静寂に慣れてゆき、自然に立ち上がれるようになったころ

縁側は夕日で、茜色に染まっていた。


浴衣は着られないので、また私服を身につけた。


忍び込むように、差した夕の色。

縁側の木目に沿って、伸びてきていた。オレンジ、と表現するのは憚られた。かたかなを、寄せ付けない風情がある。


大野は、座布団に腰を下ろし、机に頬杖をついて、縁側の様子を眺めた。




自分は城崎に来ている、と思った。




遠いところに来た。


それは、都会の喧騒から、ひとりだけ逃げてきたような、甘く退屈な感情だった。


『仕事のことは、なんにも考えなくていいから』


許された逃亡の時間が、急に、毛布のように優しく感じられて


頬とこめかみを、コトリと机に預けた、その後


大野は、しずかに寝息を立てて眠った。

湯→←柔



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きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん!こちらにも来ていただいて本当に幸せです〜ありがとうございます(泣)ご期待に添えるようなお話が書けたらなと思います! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - はるさん» はるさんはじめまして!お越しいただき誠にありがとうございます。そんなふうに言ってもらえて幸せです♪がんばります! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - やっぱりきんにくさんの小説が大好きです!癒しです!続き楽しみにしてます! (2021年1月6日 19時) (レス) id: 820f2de8f4 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - きんにくさん、初めまして。素敵なお話ありがとうございます。これからも楽しみにしています。 (2021年1月6日 11時) (レス) id: 6cd0f843d6 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - satominさん» satominさんありがとうございます♪毎度毎度、恐縮でございます。おおお…私が読んでる本は暗くて長くて素敵な本です(笑)その人たちみたいに書けたらなあと思いながらなかなか…な日々です(笑)嬉しいことを聞いてくださってありがとうございました♪ (2020年12月28日 23時) (レス) id: 3c003d42b5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年10月19日 16時

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