違 ページ49
.
柳がはらはらと散っていく様は、大野が想像していたよりもずっと哀しかったけれど
妙に心を落ち着かせてくれた。
.
はらはらと、優雅に落ちていくそれを、苔のついた石造りの柵に頬杖をついて眺めた。
(そっか……落ちたら…もとがなくなっちゃうんだ…)
柳の葉がついていた本体は、もう、ほとんど枝だけになってしまっていた。
ひとつひとつ、自身の欠片を落としていった柳は、やがて細く、枯れ木になる。
そうすれば、冬が来る。
季節は変わるのだ。
【城崎の いでゆのまちの秋まひる 青くして 散る柳はらはら】
この歌を歌った人は、柳が散ったあとに、すっかり枝だけになってしまって、そして凍える冬が来ることを、ひとつも考えなかったのだろうか。
だから、こんなに呑気に、"はらはら"などと美しく、柳の葉の死に際を、飾ってしまったのだろうか。
大野はそれについて、しばらく考え込んでいた。
もちろん答えは出なかったけれど、久しぶりに、複雑に頭を働かすことができたような気がして、ほんの少し、嬉しかった。
.
朗らかな日差しが、背中にぽかぽかと心地よくて
手にした歌のリズムも言葉も、もう覚えてしまうというようなときに
とんとん、と肩を叩かれる。
驚くことはしなかった。今日はどうしてか、とびきりとはいかなくても、少しだけ良いことが起きるような気がしていた。
【そんなに無防備にしてて良いんですか】
綺麗な文字ですっと差し出されたのは、柔らかい咎めの言葉だった。
櫻井の口元が優しく上がっていることに甘えて、大野は苦笑いで誤魔化した。
つんと、櫻井の鼻に指を立てて、同じ指で、自分の持っている和歌を示す。
あなたに貰ったこの歌のせいで、こんなところまで出て来てしまったのだ
と、身振りで言ったら、それが伝わって、櫻井はくすくすとおかしそうに笑った。
【わざとです どうしても出たくなるだろうと思って】
空は青く澄んでいて、夏よりもずっと高いところにあった。
風が少し強かったので、多少の苦しいことは薄く千切れて飛ばされそうに思えた。
妙に開放的で、気持ちよく、そして都合よく偶然に、見たい笑顔がそこにある。
だからか
ぴゅ、と吹いた風が、【城崎の いでゆのまちの】を、大野の手から飛ばして
それで
「あっ」
と短く、声が出た。
.
466人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん!こちらにも来ていただいて本当に幸せです〜ありがとうございます(泣)ご期待に添えるようなお話が書けたらなと思います! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - はるさん» はるさんはじめまして!お越しいただき誠にありがとうございます。そんなふうに言ってもらえて幸せです♪がんばります! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
律(プロフ) - やっぱりきんにくさんの小説が大好きです!癒しです!続き楽しみにしてます! (2021年1月6日 19時) (レス) id: 820f2de8f4 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - きんにくさん、初めまして。素敵なお話ありがとうございます。これからも楽しみにしています。 (2021年1月6日 11時) (レス) id: 6cd0f843d6 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - satominさん» satominさんありがとうございます♪毎度毎度、恐縮でございます。おおお…私が読んでる本は暗くて長くて素敵な本です(笑)その人たちみたいに書けたらなあと思いながらなかなか…な日々です(笑)嬉しいことを聞いてくださってありがとうございました♪ (2020年12月28日 23時) (レス) id: 3c003d42b5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:きんにく | 作成日時:2020年10月19日 16時