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庭で、鈴のような音で虫が鳴く。

よく飽きもせず、長々と歌うものだ、と大野は感心する。


かつては彼も、そうであった。



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週刊誌に載った。

まだ夏が残っていた9月のことである。




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見知った顔ぶれ、複数人で食事をし、多少の酒を飲んで、


温かい雰囲気の中、向けられたスマホのカメラに、自然に笑って応えた。


そのとき隣に居たのは、肩で切り揃えた髪が艶やかな女、ときどき仕事を共にする仲間のようなもので

爽やかな親しみから、肩に手を置かれたのを、大野は拒むことをしなかった。




仲間内で共有して、ひそやかに、思い出の引き出しとなるはずだった写真。




安くて薄い、インクのにおいのする雑誌の見開きに

大きく引き伸ばされたそれは



どうしてか



あのときの柔らかな温度を失って、悪意の糊で貼り付けられているように見えた。





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『ハメられた』




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二宮が、その紙面を一瞥して、珍しく感情をあらわにした、その表情を、大野は鮮明に覚えている。



『誰が居た、あん時。あの女の他に。この写真、誰が撮った?』



ぽんぽんと、あのとき同じ時間を過ごした、親しい仲間の顔が頭に浮かんだ。

何度も仕事を共にした仲間だった。彼らの書いた歌詞を歌ったり、彼らの立てた、若くて挑戦的な企画に参加したりした。


仲間?



『頼むよ、大野さん……言ってよ…、言わなきゃ…』



言わなかった。

大野は、向かいの席でカメラを向けた、その人の性別すら言わなかった。



『言わなきゃ俺、アンタの事守れないよ』



言えなかったのだ。


その記事が出て以降、連絡が取れなくなってしまった彼らとの、キラキラとした思い出だけが

初雪のようにいとしく、降り積もっては、心を冷やされた。



信じている、と、思う余裕がないほど、信じ切っていた。




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結局


肝心なことは、なんにも口に出さないまま


大野は、二宮に指示されるままに


なるだけ誠実で、できるだけありきたりで

傷つく人が、少しでも減るような


そういう類の謝罪の言葉を、好奇のカメラと、悪意のマイクを向けられるたびに、吐いた。




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干→←闇



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きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん!こちらにも来ていただいて本当に幸せです〜ありがとうございます(泣)ご期待に添えるようなお話が書けたらなと思います! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - はるさん» はるさんはじめまして!お越しいただき誠にありがとうございます。そんなふうに言ってもらえて幸せです♪がんばります! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - やっぱりきんにくさんの小説が大好きです!癒しです!続き楽しみにしてます! (2021年1月6日 19時) (レス) id: 820f2de8f4 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - きんにくさん、初めまして。素敵なお話ありがとうございます。これからも楽しみにしています。 (2021年1月6日 11時) (レス) id: 6cd0f843d6 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - satominさん» satominさんありがとうございます♪毎度毎度、恐縮でございます。おおお…私が読んでる本は暗くて長くて素敵な本です(笑)その人たちみたいに書けたらなあと思いながらなかなか…な日々です(笑)嬉しいことを聞いてくださってありがとうございました♪ (2020年12月28日 23時) (レス) id: 3c003d42b5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年10月19日 16時

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