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宿の前で車を停めた。


その宿は、温泉街から少し離れ、両端に民家の並ぶ坂をあがったところの、小高い丘の上にあった。




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長いドライブだった。




大野が、停車した後も、呆けたように窓に手をついて外を眺めているので

二宮は運転席を降り、後部座席の、大野が座っているほうとは反対側のドアを開け、そこからうんと手を伸ばして彼の肩を叩かなければならなかった。



「大野さん、ホラ着いたよ。降りて」



それでようやく大野は車を降りた。



すんと息を吸ったら、山と古い民家の、さびしいにおいが胸に来た。


それが好ましくて何度も吸った。東京よりずっと潤んだ空気だった。



「あーこりゃ、空気が違うわ…俺チェックインしてくるけど来る?」



二宮の言葉は耳に入らなかった。


車で登ってきた坂道が、ずうっと緩やかに、城崎の温泉街に伸びているのを眺めていた。

なかなかに郷愁のある、良い眺めだった。



そういえば、と大野は思う。


医師が言っていた、『押し並べて』って、どういう意味だろう…


いちど気になれば、解決せねば済まなくなってしまって、宿に向かって歩き出した二宮の背中に、「おしなべて、ってどういう意味?」と


尋ねようとした。



お、の形に唇をして、お、の音が出るように喉を動かした筈だった。



しかし喉の奥に、ゴムの栓をされたように、くん、と詰まってしまった。



「……」



大きく息を吸っても、なんど唾を飲み込んでみても、大野の声帯は、いつものようには震えなかった。





声が、出なくなっていた。





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淡→←蕩



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きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん!こちらにも来ていただいて本当に幸せです〜ありがとうございます(泣)ご期待に添えるようなお話が書けたらなと思います! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - はるさん» はるさんはじめまして!お越しいただき誠にありがとうございます。そんなふうに言ってもらえて幸せです♪がんばります! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - やっぱりきんにくさんの小説が大好きです!癒しです!続き楽しみにしてます! (2021年1月6日 19時) (レス) id: 820f2de8f4 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - きんにくさん、初めまして。素敵なお話ありがとうございます。これからも楽しみにしています。 (2021年1月6日 11時) (レス) id: 6cd0f843d6 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - satominさん» satominさんありがとうございます♪毎度毎度、恐縮でございます。おおお…私が読んでる本は暗くて長くて素敵な本です(笑)その人たちみたいに書けたらなあと思いながらなかなか…な日々です(笑)嬉しいことを聞いてくださってありがとうございました♪ (2020年12月28日 23時) (レス) id: 3c003d42b5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年10月19日 16時

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