第五訓 ページ5
居間に残っているのは、二人。
真っ白な髪に赤色の目。
その表情に喜怒哀楽はない。
「…楽しそうな、所ですね」
「うん、楽しいよ。私の家だ、楽しくないわけがない」
小狐丸と、審神者だ。
小狐を残したのには訳がある。
「安倍と別れてから、一度も喋らなかったね」
そう、彼は紹介の時でさえ笑顔すらみせず、只々Aを一心に見つめていた。
「…ぬしさま、私は自分がどうしたらいいのか分からないのです」
「どう、とは」
「前の主の元で、私たちはただ使われるがままに生きていました。…けれど、あなたは違うようです。同じ審神者として憎むべき存在なのに、それができない。あなたの強い光のある目をみると自分が何をすればいいのかわからなくなってしまう」
二人の視線が、交わった。
獣じみたその顔には困惑が浮かんでいる。
―――獣は、獲物がいなければ本気を出せぬ
前は、獲物が審神者だったのだろう。
その憎しみを利用して彼は戦場で戦ってきたのだろう。
…そうして己を削ってきたのだろう。
けれど新しい主だと紹介されたAのこちらを見る目に恐怖も憎悪も何もなく、小狐は困惑した。
それが、こちらを見るそれが、前の主の様に冷たいものならばどれだけ楽だっただろう。
Aの目は、優しかった。
だからこそ、自分の生き方を見失ってしまった。
「そうだね、私はまだ審神者になったばかりで戦場の事は何も分からない。だからこうして呑気でいられるのかもしれない。本当は審神者なんてもの、向いていないのかもしれない」
しかしこれからの事を思うとどうにも先が見えないのは、Aも同じだった。
戦というのは少なからず血の流れる、争いの場であり、命をかけた場所。
この前まで一つの神社の神主としてただ任務を全うしていたただの一人の少女にならなかったのに、今日という日、唐突に命を扱う者となった。
神を崇める人間ではなく、神を遣う人間となった。
自分の生き方がわからないのは、Aも同じことであった。
だからこそ、分かることもある。
「それでも私は私なりに審神者として生きていこうと思う。私もまだまだ分からない事ばかりだからさ、一緒に探していけばいいんじゃないかな」
何もわからなくたって、暗闇のどん底だって歩くことはできる。
一人だと心細いのなら、誰かと共にいればいい。
その道がこれからもっと暗くなったのだとしても。険しくなったのだとしても。
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黎奈(プロフ) - はじめてコメントさせていただきます！！すごく面白かったです。完結お疲れ様でした！第四訓で宗三左文字が宗山左文字になっていらっしゃるのでご報告させていただきます。あと、ちょこちょこ報告に来るかもしれません… (2015年10月18日 22時) (
レス) id: 339ceb4b4b (このIDを非表示/違反報告)
華維璃(プロフ) - お疲れ様でした！とても面白かったです！小説の書き方、参考にさせて頂きます<(_ _)> (2015年9月22日 20時) (レス) id: 5dbf713d35 (このIDを非表示/違反報告)
連合(プロフ) - お疲れ様でした！ (2015年7月19日 17時) (レス) id: bbc5de6b90 (このIDを非表示/違反報告)
らい兎(プロフ) - 第三四訓の「突き出ているのは日本の大きな角。」というところもしかして日本→二本でしょうか？面白かったです。 (2015年7月13日 23時) (レス) id: 5d4b050560 (このIDを非表示/違反報告)
零玲飛(れいれと)(プロフ) - お疲れさまでした、面白かったです！宗近のじいちゃんが入手できないのが痛いですね。 (2015年7月10日 19時) (レス) id: 0bd3908221 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：稜 | 作成日時：2015年4月10日 14時
