第二三訓 ページ23
「桜…、といえば…
散りぬべき
時知りてこそ
世の中の
花も花なれ
人も人なれ
…だったっけ」
桜の花弁が目の前を過ぎ、Aは小さく呟いた。
「ん？なんだ、それは」
三日月はきょとん、と首をかしげる。
Aは、平安時代にはない詠み方だろうね、と返した。
「三日月が生まれてからずっと後に詠まれた詩だよ。…散りどきを心得てこそ美しい。そういう意訳」
「人で言えば死に時、という事か」
「うん。…人は、死ぬんだよ」
付喪神。それは百年生きた刀に命が宿る、そういう例えのようなもの。
少なからずや、神は神。
人と、神じゃ、生きる速度が違う。
「三日月はこの世に造られてから1000年は経った？それがあなたにとって早かったか遅かったかはわからないけど、少なくともその、ほんの後50年もすれば、きっと私は死ぬ」
「…ああ、そうだな」
三日月は否定する事もなくただうなずく。
「ずっと一緒なんて、できないよ」
神と同じように。
老いを知らずに母様を待てるのなら。
ずっとこの神社を守れるなら。
皆と一緒に、いられるのなら。
それはどんなに素晴らしい事なんだろう。
「でもっ、私は…！私は、ずっと皆と一緒にいたい！」
初めて、零した本音。
甘いと言われながらも皆のためと奔走してきたAは弱音を吐きはしなかった。
そんな彼女の、本音。弱音。心の音。
「だって皆、大好きなんだ。家族、なんだ。…でも、ね、人間は、私だけだから」
幼い頃無くした暖かい両手は、もうすでに神の手の内。
人の体温はもう、数年も知らないまま。
これはいうなれば、鉄塊と人の、歪な家族の話で。
これはいうなれば、神様と人の、歪な出会の話で。
「私だけ、背が伸びて、私だけ、髪が伸びて、私だけ……どうして、私だけ」
ーーーｻｧｯ
風が吹き、桜は散る。
けれど枯れる事のないその花は、ただただ足元に桃色の絨毯を作っただけだ。
「…正直、あなたに名を知られた時。いっそ本当に神隠しに合わせてはもらえないかと、思ったよ」
「おや、物騒な」
反転。
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黎奈(プロフ) - はじめてコメントさせていただきます！！すごく面白かったです。完結お疲れ様でした！第四訓で宗三左文字が宗山左文字になっていらっしゃるのでご報告させていただきます。あと、ちょこちょこ報告に来るかもしれません… (2015年10月18日 22時) (
レス) id: 339ceb4b4b (このIDを非表示/違反報告)
華維璃(プロフ) - お疲れ様でした！とても面白かったです！小説の書き方、参考にさせて頂きます<(_ _)> (2015年9月22日 20時) (レス) id: 5dbf713d35 (このIDを非表示/違反報告)
連合(プロフ) - お疲れ様でした！ (2015年7月19日 17時) (レス) id: bbc5de6b90 (このIDを非表示/違反報告)
らい兎(プロフ) - 第三四訓の「突き出ているのは日本の大きな角。」というところもしかして日本→二本でしょうか？面白かったです。 (2015年7月13日 23時) (レス) id: 5d4b050560 (このIDを非表示/違反報告)
零玲飛(れいれと)(プロフ) - お疲れさまでした、面白かったです！宗近のじいちゃんが入手できないのが痛いですね。 (2015年7月10日 19時) (レス) id: 0bd3908221 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：稜 | 作成日時：2015年4月10日 14時
