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深夜私は異臭に目覚めて、部屋の外に出ると、家は炎に包まれていた。
火事だった。
私は急いで葵が寝ている部屋に行くと、葵も既に起きていて、ただ呆然と立ちすくんでいた。
「葵、逃げないと……!」
「う、うん……そうだね」
私たちは二人で手を繋いで玄関へ向かった。元から古かった家は、焼かれた壁や床が黒くくすんで、ギシギシと不気味な音を鳴らしている。
玄関に続く廊下に出たとき、大きな音と叫び声を聴いて、私は振り返った。
そこには崩壊した壁や柱の下敷きになった葵がいた。
「あ、葵……!」
「うう……痛い、いたい、助けて、茜」
私は慌てて葵の体を引っぱり出そうとしたけど、びくともしないし、葵は悲痛な叫びを上げるだけだった。
家は崩壊を続けていた。
早く脱出しないと、二人とも死んじゃう。
早く……
私が、助けないと……
葵は私の……大切な……
ホントウに…?
葵がいなかったら、私は……
私は
もっと幸せだった?
1番になれた?
葵ばっかりいい思いして、ずるい。
羨ましい。悔しい。憎い。
死んじゃえばいいのに。
一度溢れ出した負の感情はもう止まらなかった。
気づくと私は葵に背を向け、玄関へと歩を進めていた。
「待って!!お願い……助けてぇ!」
「バイバイ、葵」
私は助けを乞う葵を見捨てて、一人脱出した。
直後に家は倒壊した。
葵の叫びはもう聞こえなかった。
消防車や警察、救急車、外は随分にぎやかだ。
私は大人に保護された。
「よく無事だったね、本当に良かった。もうすぐご両親もいらっしゃるそうだ。……名前を教えてもらえるかな?」
「屋久谷……あ、葵です」
私は自然とそう名乗っていた。
葵は私がさっき見殺しにしたじゃない。
でも、これから劣化版の茜として生きるより、全てに恵まれた葵として生きるほうがきっと幸せだ。
茜が死んでもきっと誰も悲しまない。
だけど、葵が死んだら大勢の人が悲しむ。
私は正しい判断をした。
鎮火されてから、焼け跡からは一人の遺体が発見された。
身元の確認ができないほど、遺体は焼かれてしまっていて、私の証言から身元が決定されることになった。
「妹の茜が逃げ遅れて……私助けられなかったんです」
私は嗚咽を漏らして、大声で泣き始めた。
それが演技だったのか、そうじゃなかったとして何に泣いていたのか、自分でも分からない。
そうして、火事により茜は死んだ。
私は『屋久谷葵』として生きることにした。
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みらーぼーる(プロフ) - 花乃子さん» そうでしたか…💦ありがとうございました🙏 (5月14日 16時) (レス) id: 86351c9672 (このIDを非表示/違反報告)
花乃子(プロフ) - みらーぼーるさん» 公開していたのですが、恥ずかしいので現在は参加者様のみの閲覧に限定させて頂いてます🙏🏻ごめんなさい💦 (5月14日 16時) (レス) id: b739fbefbf (このIDを非表示/違反報告)
みらーぼーる(プロフ) - コメント失礼します!「絶ステ本編・あとがき」を公開する日にちはいつですか?公開する予定はありますか?🤔 (5月14日 16時) (レス) id: 86351c9672 (このIDを非表示/違反報告)
花乃子(プロフ) - 救世主さん» ありがとうございます✨キャラクターは他の方に作って頂いた子達で、素敵なキャラクターばかりだったので本編執筆が捗りました! (5月14日 13時) (レス) id: b739fbefbf (このIDを非表示/違反報告)
救世主(プロフ) - 完結おめでとうございます🥳🎉キャラクターがそれぞれ個性的なのが魅力だと思います👍1人1人に裏の面があったり、設定がしっかりしていて飽きずにずっと楽しく読ませていただきました!とっても面白かったです💗🥰 (5月13日 1時) (レス) @page39 id: 0bbfc75c53 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:花乃子 | 作成日時:2023年3月31日 22時