花笑み Ⅲ (ページ10)

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95.継ぐる種をページ10

Side:nb

春の舞台をやるときには一曲、
グループとしての新曲を入れるのが恒例になりつつある。

レコーディング、MV撮影の行程を考えると、
それはすぐに動き始める必要があって、

今日はその曲を全員で決める予定だった。

会議室に集まって、パソコンを囲む。
９人で観るには小さな画面に、
01,02とだけ書かれた楽曲のデータが表示されていた。

簡易的なスピーカーシステムにパソコンを繋ぐと、
独特のバツっというノイズが走る。

康二がそれに驚いてひっくり返るのを見て、
俺たちは腹を抱えて笑った。

独特の、期待と緊張が入り交じる雰囲気が、
少しだけ和む。

fk「とりあえず聴いてみようか」

ふっかがそう言ってパソコンの操作を始め、
01と書かれたデータをクリックする。

「なるほどね」

複数のメンバーが、
納得したように声を漏らすのが聞こえる。

俺も、スピーカーから流れてきた音を聞きながら、
口には出さないが、同じ感想を持った。

ロックテイストの曲で、

それまでアップテンポなポップスや、
セクシーな大人なナンバーなど、

いわゆるアイドル路線が強めな楽曲が多かった俺たちにとっては、
新境地、とも言える楽曲だった。

メロディーの裏で、
激しいギターが鳴っていて、
ベースとドラムが複雑なリズムを刻んでいる。

セリフ風のわかりやすいキメもあり、
聞いていて面白みがあった。

メンバーの顔を見回してみてもその反応は上々で、

普段何曲か聞いても
全員が納得する曲になかなか巡り会えない時もある俺達からしたら、
かなりの好印象。

キャッチーで耳に残りやすいフレーズの数々は、
大衆にも受けるだろう。

「いいじゃん」

曲が終わると、
メンバーがそれぞれそう口にした。

わかりやすく、「売れそう」な曲。

曲調は新鮮でかなり攻めているけど
耳馴染みは良い。

ru「誰もうーんて言わないの、
　珍しくない？」

iw「だな」

メンバーも同じように感じたらしい。

この曲で決まりかな、と思いながら、
俺たちは半ば事務的に、
次の曲が始まるのを待った。

一応聞いておこう。

それくらいの気持ちだった。