花笑み Ⅲ (ページ40)

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その衣装を着た阿部ちゃんは
やっぱり花みたいに美しい。

気づけばいつも、
彼を花に例えている自分がいて、
それさえも病気にとらわれている気がして悔しくなった。

それでも、やっぱり彼には、
花がよく似合う。

目の前に置かれたデザイン画の衣装は、

動くたびに立体的になびくようなロングジャケットで、
胸元には細身のリボン、
花弁のような可憐さと
力強さが同居したようなデザイン。

「…ここの生地は？」

そのロングジャケットの異素材の切り返し部分を指差しながら聞く。

dt「あぁ、これは…」

それまで全く意見なんて言わなかった俺に、
舘さんは嫌な顔ひとつせず、
数ある生地のサンプルを何枚かめくって、
俺に手渡してくれる。

想像より少し重ためな生地だった。

「これ、もうちょっとだけ薄くて、
　ふわってなる、舞う、みたいな、」

拙い言葉で必死に説明すると、

舘さんは俺の手から生地のサンプルを受け取って、
何枚か候補を出してくれた。

イメージに合うものを探していく。

「違う、あーうん、でももうちょっと軽くて…」

舘さんは俺のわがままに根気よく付き合ってくれた。

「あ、これ、
　こういうのがいい」

たどり着いたのは、当初の予定の生地よりもかなり薄くて、
半透明で透ける生地。

軽くて、息を吹きかけるだけで
ふわりと飛んでいってしまいそうなものだった。

dt「なるほどね。
　佐久間のイメージが掴めた気がする」

そう言って改めてそれを眺める。

dt「一枚だと薄いから、
　何枚か重ねて色に変化を出すのも面白そう。
　他のメンバーにも
　似た装飾つけられないかな」

そこから先は、舘さんに任せることにした。
ちゃんと伝わった、と感じたから。

まだ、どこでも歌えていないあの歌を歌いたい。

阿部ちゃんを囲んで、
この衣装を着て、歌いたい。

綺麗な衣装を身にまとって、真ん中に立ち、
少し居心地悪そうに俺を見る阿部ちゃんの姿が目に浮かんだ。

kj「さっくん、にやけてるで」

康二にそう言われて、
自分の口角が無意識に上がっているのに気がついた。

こんな風に無意識に笑ってしまうのは久しぶりだった。

「阿部ちゃん似合うだろうなぁ。
　綺麗だろうなぁ。
　
　…楽しみだね、あの曲歌うの。」

kj「…そやね」

康二は同意するように頷いてくれた。