花笑み Ⅲ (ページ32)

今日:34 hit、昨日:4 hit、合計:268,470 hit

117. ページ32

・

荷物をまとめていると、
ラウが思いつめた表情でこちらに近づいてきた。

阿部ちゃんの荷物をまとめている俺を
不思議そうに見つめている。

「どした？」

浮かない顔をしたままのラウに声をかけると、
ラウはやっぱり思いつめた表情で俺を見た。

ru「…病気のこと、勝手に話しちゃった」

「阿部ちゃんが悪いよ、あれは」

ru「ふっかさん、怒らないであげてね」

俺が苛立っていたことに気づいていたみたいだ。

変な気を遣わせてしまったな。

「怒らないよ。それに、」

それに、あれは自分に腹が立っていたのだと、
しばらく時間が経ってから気がついた。

阿部ちゃんがそういうことを言わないことくらい、
知っているじゃないか。

気がつけない自分が、
言いやすい環境を作りきれていない自分が悔しかった。

ru「それに？」

「いや、なんでもない」

ラウは、まだ不安そうな顔で俺を見ている。

「ラウ、あの病気って、
　疲労とかで熱出すこととかあるの？」

ラウは目を見開いて、
阿部ちゃんの方を見る。

ru「…阿部ちゃん、熱っぽい？」

「うーん、ちょっとね」

ラウと共に眠っている阿部ちゃんのところに向かう。
やっぱりじんわりと汗が滲んでいるのが気になった。

「阿部ちゃん、終わったよ」

何度か身体を揺さぶると、
彼はゆっくりと目を開けて、眩しそうに目を細める。

「おはよ。
　終わったから帰ろうか」

気だるそうに起き上がるのに手を貸すと、
阿部ちゃんは不思議そうに俺の顔を見た。

「なに、ふっか。」

起き上がるのに手を貸したのを不思議に思ったらしい。
起き抜けのふわふわした様子で、彼は首をかしげている。

「体調悪い？熱っぽかったりしない？」

ab「なんで？全然元気だよ」

阿部ちゃんは周りを見渡しながら、
元気、とアピールするように腕を大きく回した。

「嘘つくなって。
　よく眠るのは病気の影響だろ？
　さすがにみんなもうわかるって。」

阿部ちゃんは俺の言葉に、わざとらしい動きを止めて、
困ったように微笑む。

その心の奥が見えない。