花笑み Ⅲ (ページ19)

今日:3 hit、昨日:51 hit、合計:268,582 hit

104.真夜中のチョコレートページ19

Side:iw

新曲を聞いて、
俺たちは満場一致で二曲目のミディアムバラードを選んだ。

今はその振り付けを、
家で黙々と練っている。

どうしても初めに感じたイメージが頭から離れない。

まだ歌割りすら決まっていなかったのに、
どうやって表現するか、
そればかりを考えてしまっていて、

こんな感覚は初めてだったように思う。

家にあるシ◯バニアファミリーを動かしながら、
フォーメーションを練る。

可愛らしいつぶらな瞳と、
何度も目が合った。

普段は、曲の頭からストーリーを作っていくのに、
今回は後半のフレーズから先にイメージが湧いて、
それを軸に、逆算する形で構成を練った。

こんなやり方はしたことがないから、不安になる。

ちゃんと第一印象のイメージは崩さないまま、
ストーリーとして成立しているのか、
わからなくなった。

可愛いうさぎと目が合ったところで、
彼らは自分の意志では動いてくれないし、
正解は教えてくれない。

ただそこにとどまって、
自分を真っ直ぐな目で見てくるだけだ。

今、俺の目の前の動物たちは、
一匹のうさぎを囲んでいる。

いままであまり真ん中に立つことが無かったうさぎだ。

いつもバランスを見て、
一歩後ろで支えてくれるようなところがある阿部は、
あえてセンターに立たせるよりも、

その周りにいるほうが魅力が伝わるような気がして、
そのポジションにあまり置くことはなかった。

あの優しい人柄を活かすのに、
必ずしもセンターである必要はなかったのだ。

だけど、初めて曲を聞いた時、
ここだけはあいつをセンターに置きたい、
と思う箇所があって、

それを実現するために、
そこまでのストーリーを必死に考え抜いたつもりだ。

「…どう思う？」

目の前のうさぎに声をかけてみるが、
やっぱり返事は返ってこない。

本当は、肯定してほしいだけだ。

自分の振り付けには自信があったし、
構成も上手くまとまったと思う。

ただ、なぜか普段のように、
これで間違いない、と言い切れない自分がいる。

それがどうしてかはわからなかった。

ただ漠然と、不安な気持ちだけがある。

俺はもう一度もらった音源を再生し、
一端シ◯バニアファミリーから離れた。

煮詰まったときは、別のことをするのが一番だ。