花笑み Ⅲ (ページ16)

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衣装のデザインはいつも手探りで、
ときに自信がなくなりそうになることすらあった。

それを周りに言ったところで何も解決しないから、
自分との戦いでもある。

今年も華やかな色をたくさん使いたいと思っていた。
ただ、楽曲のイメージが強いので、
あまり全面に主張しすぎるのも違うような気がしている。

ab 「舘さんは、本当に、
　メンバーのことをよく見てるよね」

阿部は衣装を一枚一枚引き出して眺めながら、
相変わらず優しい眼差しでそう言う。

ab「これも、初めてみたときは、
　攻めたデザインだったから、
　着こなせるかな、とか似合うのかな
　って思ったけど
、

　袖を通したらびっくりするほどみんな似合って。
　新しいみんなの個性に気づいたんだよね」

そういえば、そんなこともあったな、
と思い出した。

自分が初めてデザインした衣装がズラッと並んだ時、
喜びとともに、
メンバーの反応が気になって仕方がなかった。

優しいメンバーのことだから、
文句は言わないだろう、とは思っていたけれど、

表情を見ればわかる。

最初は驚きと、
ほんのすこしの戸惑いの色が見えた。

今でも覚えている。

ab「今はもう安心感しかないけどね。
　舘さんは俺たちをよく見てて、
　
　自分たちでも気づけない個性を
　衣装で引き出してくれるから。」

そんな風に言われたのは初めてで、
どうリアクションを取るべきか迷い、

結局俺は仏頂面のまま「ありがとう」と短く応えた。

ab「いつもありがとうございます」

「何だよ急に」

ab「ちゃんと伝えておかないとなーって」

阿部は屈託のない笑顔で笑っている。

ab「ごめんね、いつも迷惑ばっかり」

「迷惑なんて思ってないよ」

さっきまで笑っていたのに、
気がつくと彼の表情には影が落ちている。

ab「…たまに、舘さんが遠く感じる。
　わざと一歩引こうとしてるみたいに」

優しい口調で、核心を突くようなことを突然言われて、口ごもる。

俺と阿部の間にあった
あの氷河期と呼ばれる期間。

時間は巻き戻せないし、取り戻せない。

阿部に寄り添うべきは俺じゃないし、
これ以上近づけない、
近づいてはいけない。
支えるのはもっと時間を共に重ねたメンバーだ、と

未だに思ってしまうから、
ふとした時に、一歩引いてしまうのだ。