花笑み Ⅲ (ページ15)

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曲に合わせた衣装が9人分、
綺麗にハンガーにかかって並んでいる。

俺はすでに、次の舞台で披露するはずの新曲の衣装を考え始めていた。

あの、魅力的な、力強い楽曲。
華やかだけど、華やかさだけでは足りないと思っていた。

それに合わせてMVの撮影もする、
と聞いていたので、
デザインは早めに数パターン作っておきたい。

MVの撮影やレコーディングは、
舞台が本格的に動き始める前に撮り切るはずだ。

何着か衣装を見比べ、
それぞれのメンバーの個性や雰囲気に、
イメージを膨らませていく。

あの曲を初めて聞いた時、
一瞬踊るメンバーの姿がイメージできて、
その記憶の断片とかけ合わせながら、
衣装のデザインに落とし込んでいく。

ab「舘さん、なにしてるの？」

並んでいた衣装を端から見て回っていて、
たまたま阿部の衣装に手をかけていた時、
彼が横からすっと顔を出した。

先程までの眠たそうな、
疲れの溜まったような顔ではなくなっていた。

上手に隠している。

「もう平気なの？」

ab「うん、全然平気。
　最近低血圧で…」

決して病気のせいとは言わない。

「平気ならいいけど」

ab「ありがとう。
　 …で、何してるの？」

阿部は再び俺の手元に視線を移動させながら言った。

「新曲の衣装のデザインの参考にしようと思って
　見てただけだよ」

ab「そっか、
　衣装はもう動き出さないとなのか」

阿部は感心したように言って、
にこにこと俺と共に衣装に手をかけた。

「阿部はどの衣装が気に入ってる？」

ab「んー…全部好きだけど、
　舘さんデザインのストライプのは個性的で好きかな。

　あ、これも良かったよね」

阿部は目の前の衣装に手をかけて、
目をキラキラさせながらそれを眺めていく。

自分のデザインを褒めてくれたのは
彼の優しさだったのかもしれないが、

その視線は真っすぐで、嘘はついていないように見えたから、
素直に自分がデザインしたものを褒めてくれたことに、
なんとなく救われる。