花笑み Ⅲ (ページ12)

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曲が終わった後、
しばらく、誰も口を開こうとはしなかった。

その沈黙が、

自分が見たのと、感じたのと同じ感覚を、
仲間たちが抱いたのではないかと期待させる。

俺はなぜか阿部ちゃんの顔が見られなくて、
あえて視線の中から彼を追い出した。

どこか諦めていたことへの
罪悪感かもしれない。

今まっすぐに彼を見れば、
感情が思い切り揺さぶられてしまいそうだった。

涙がこぼれ落ちてしまいそうなほどに。

fk「…どうよ」

沈黙を破るように、ふっかが言った。

俺はこの気持ちを吐き出してしまいたくて、
咄嗟に言葉を繋ぐ。

「二曲目がいい」

自分の口から出た意思の強い声に、
正直自分が一番驚いた。

こんなにはっきり断言するつもりはなかったのに、

俺の口はそれだけを言葉にすると、
動かなくなった。

言いたいことはたくさんあるはずなのに、
なぜか動かない。

dt「俺もそうだけど…
　正直、表現するのは難しいとは思う」

涼太が俺の言おうとしていた言葉を繋いでくれて、
少しだけ安堵した。

そう、難しい。
圧倒的に難しい。

この曲は一歩間違えれば失敗するような、
コケてしまうような危険性をはらんでいる。

それほどにアンバランスだ。

言うなれば、
この曲にはすでに濃い色がついていて、

その色を上手く活かしながら、
濁らないように慎重に

俺たちの色を重ねていく必要があって、

少しでもその配分を間違えれば、
途端に汚い色になってしまう。

そう考えると、一曲目を選ぶのが無難だろう。

今の俺たちで十分に表現できる。
俺たちの色に、染められる。

ただ、挑戦する価値はある。

これを表現できれば、
何かが変わるような気がした。

６人から９人になる時、
この３人を加入させる、
と決めるときに感じたそれに似ていて、

もう一つ階段を登るには、
絶対に必要なことだとさえ思う。

たかが一曲。

大げさだろうか。