初恋の人 その4 ページ5
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驚いて、何も言えなかった。空いた口が塞がらないとは、こういうことを言うんだと思う。今僕はどんな顔をしているのだろうか。わからないが、今までで一番ひどい顔だということは確かだ。
「自分の姉ちゃんと知らん男のヤってる声なんて聞きたくなかったよな……あんま気分良くなかったろ? ごめんな……」
「謝らないでください! それより、僕が戻ったことに気付いてたんですか……?」
菅原さんは変わらず困ったような様子で話してくれた。少しの物音で、僕が戻ってきたことに気がついたこと。姉に気づいて欲しくなくて、知らないフリをしたこと。僕が気分を悪くしているんじゃないかと気がかりでならなかったこと。そして最後にもう一度、ごめんな、と言った。
「大丈夫です、僕は全然気にしてないので! 僕の方こそ盗み聞きみたいなことしちゃって申し訳ないです…… 」
「ううん、春樹はなんも悪くないよ。……って、あんまり長く喋ってちゃダメだな。もう6時になるし、中学生は帰らないと。このこと、清水には内緒だぞ?」
菅原さんは片手の人差し指を口元に持っていき悪戯っぽく笑って、もう片方の手で僕の頭を撫でた。その笑顔にドキドキしながら、僕はこくりと頷いて見せた。
「じゃ、またなー!」
「はい、さようなら!」
菅原さんと別れて、再び家に向かって歩き出す。菅原さんに触れられたところが熱い。
「好きだなぁ……」
小さく呟いた言葉は、誰かに届くことも無く、冬の夜の冷たい空気に溶けた。
家に着くと、玄関には明かりがついていた。玄関の扉を開けると、エプロン姿の姉が笑顔で迎えてくれた。
「ただいまー」
「おかえり。母さんたち、もうすぐ帰ってくるって」
姉はそういうとキッチンへと戻っていった。僕は自室へ向かった。
自室の扉を閉め、コートを脱ぎ、ベッドに寝転ぶ。一気に緊張が解け、大きくため息をついた。そして、今日1日の出来事を思い出す。姉の部屋から漏れる声を聞いてしまったことも、友達とゲームをしたことも、帰り道に菅原さんに会ったことも、悪戯っぽい菅原さんの笑顔も、菅原さんに撫でられた感触も。
(ほとんど菅原さんのことばっかりじゃん……)
そんなことを考えると自分で自分に呆れ、一人で小さく笑ってしまったのは、誰にも言えない秘密である。
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ハムちゃん大先生(プロフ) - 優麻さん» 了解しました!この物語中に織り交ぜたいと思います。今後の展開にご期待ください! (2020年1月1日 18時) (レス) id: 2a7a4ab774 (このIDを非表示/違反報告)
優麻 - ハムちゃん大先生さん» ぁ、あ、ありがとうございます!及川さんと岩ちゃんと三角関係が欲しいとか言っても…? (2019年11月19日 22時) (レス) id: fe7d430fbe (このIDを非表示/違反報告)
ハムちゃん大先生(プロフ) - 優麻さん» リクエストも募集しておりますので、こんな話が読みたい!という希望がありましたらなんなりとお申し付けください。リクエストは作中に織り交ぜたり、次回作の参考にさせて頂きますので、お気軽によろしくお願いします! (2019年11月19日 12時) (レス) id: 2a7a4ab774 (このIDを非表示/違反報告)
優麻 - ハムちゃん大先生さん» みぎゃああああああありがとうございます!楽しみにしてます!すごい分かります。どうしても悲恋が書きたくなるんですよね。私は書けないんですけど! (2019年11月11日 20時) (レス) id: fe7d430fbe (このIDを非表示/違反報告)
ハムちゃん大先生(プロフ) - 優麻さん» 木兎さんと国見くんもかっこいいですよね! 出来ればこの2人も、物語の中に登場して夢主くん達と絡むようにしたいと思います! (2019年11月10日 17時) (レス) id: 2a7a4ab774 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハムちゃん大先生 | 作成日時:2019年11月5日 22時