私が雨を好きな理由【Tatsuya.F】 (ページ35)

今日:5 hit、昨日:77 hit、合計:196,757 hit

35. ページ35

電気もつけず暗い空間。

ポタポタと髪の毛から水が滴って

さっきまで感じなかった寒気で体が震える。

深澤「ちょっと待ってくださいね」

後ろでガサガサと慌ただしい音が聞こえて、何かを手に持って私の前に立った深澤さん。

ファサッと目の前に被せられた何か。

深澤「すみません、さっきリハで使っちゃったやつなんですけど…風邪引いちゃまずいから」

その上から添えられた手。

優しく、ゆっくりと髪の毛をタオルで拭かれる。

フワッと濡れたタオルから香る優しい香り。

何も言わずに、何も聞かずに私の頭を優しく拭くその手つきに。

さっきとはまた違った苦しさを感じて

じわっと目に溜まっていく涙。

必死に耐えようとすればするほどどんどん溢れていく。

　

『…っ』

バレないように、下を向いていたら

耐えられず鼻を啜った音が思ったよりこの静かな空間に響いてしまって

深澤「…北条さん？」

ピタッと髪を拭く手の動きが止まる。

だめ、このままじゃ

頭に置かれていた両手がそっと顔の横に添えられて

私の顔を覗き込もうとした深澤さんの顔が見えそうになって

この顔を見られない様に何とか逸らそうとしたのに、そっと上を向かされて

すぐ近くで深澤さんと目が合った。

涙でボロボロの私を見て驚いた表情をしている彼に

『…何でもな』

何でもないです、と何の説得力もない言葉で
彼の胸元に両手を置いて距離を取ろうとしたのに

背中と頭に手が回って

気づいたら力強く抱きしめられていた。

『離してっ』

すぐに離れようとしても到底力は敵わなくて
更に強く抱きしめられる。

深澤「…何で一人で泣こうとすんだよ」

耳元で聴こえる掠れた声が

力の入らない体に響いて、更に涙腺を刺激する。

どうして離してくれないの。

どうしてあなたの声は、あなたの香りは

すっと私の中に入ってくるの。

何も考えられなくなって

でも今は一人になりたくなくて

そっとその背中に手を回したら

一瞬力が弱まったけど

私の声にならない心の声が聞こえたのか

またギュッと力強く抱きしめられた。