冷たい手-1-【紫】 (ページ1)

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＿＿＿＿＿＿＿最悪。

ホントに今日はついてない・・・

出張する日に限って寝坊するし、乗るはずだった新幹線は目の前で扉が閉まるし、
ギリギリ取引先との打ち合わせには間に合ったけどそこのオジサン社員にセクハラ発言されまくるし・・・

最後は絶対笑顔引きつってたわワタシ・・・

そしてその災難続きに追い打ちをかけているのが今のこの状況＿＿＿

『＿＿＿はぁ・・・今日は絶対厄日だ・・・』

ため息をつく私の目の前には手を伸ばして取るには少し距離のある所まで沈んでしまったスマホ。

画面は暗く、端には一筋のヒビが入ったスマホが憎らしいほど透き通った水の底でキラリと反射する。

急いで取ってももうすでに手遅れであろうスマホをぼーっと見ていると
後ろから声がした。

「＿＿＿＿あのぉ・・・・

それ。

取りましょか？」

振り返ると私からは思いっきり逆光で顔は見えなかったが
何も悪いことをしていないのに申し訳なさそうな顔をする人は(見えないから想像ではあるが…)
私の返事も聞かぬ間にザブンッと湖に入った。

『____っえ』

「うわぁ。これは・・・アウトっすねぇ。」

『・・・で、すね・・・。』

拾い上げられたスマホは予想通りピクリとも動かない。

ポタポタと垂れる雫が光に反射して綺麗だなぁなんて呑気に考えてしまうほどだ。

拾ってくれたお兄さん(目の前に来たことによって姿が確認できたがどうやら釣り人？らしい)は自分の服でゴシゴシとスマホを拭いてから
振ってみたり、裏返してみたり、太陽に当ててみたり何やらいろいろ試行錯誤してくれている。

『あ、あの・・・

すいません。水に入ってまで取っていただいたのに・・・

もう大丈夫ですので・・・

ありがとうございました。』

元はといえば自分の不注意で落としたスマホ。
深々とお辞儀した時に見えたお兄さんの足元に水溜まりができていたことにさらに申し訳なさが込み上げてくる。

急いでハンカチを鞄の中から取り出そうとしていると

「あぁ！大丈夫っす！

こんなん釣りしてたらよぉあることやし。

替えも持ってきてるんで！

お姉さんのハンカチ汚れたらあかんし、ほんま大丈夫！

な？」

と、ズボンをパンパンとはたきニコッと笑うその顔に一瞬ドキッとしたが
『…すいません。』ともう一度頭を下げてハンカチと共に鞄にしまった。