番外編五 ページ29
今日はいやいや参加させられたアンダーソン公爵家のお茶会当日。姉さんはまあ仕方ないとして俺は完全にとばっちりである。
「アルバート様、どこに行かれるんですか」
「別に脱走しようとはしてねえよ。ちょっと会場から離れたいだけだ」
混ざりに混ざった香水の匂いと貼り付けたような大人たちの笑顔の空間に耐えられず、俺は会場から離れ、公爵家のだだっ広い庭を歩いていた。何が楽しくてあんな空間にいるのかさっぱりわからない。自分もいずれあの中に入ることになるのだと思うと嫌になる。いっそのこと、勘当されて平民になる方がずっといいんじゃないか。
そんなことをぐるぐる考えていると、後ろから声がかかった。
「アルバート様、そろそろ戻りましょう」
「……珍しいな、グレンがそんなこと言うなんて」
いつもはこれくらいの休憩、なんてことなく付いてくるのに今日はやけにソワソワしている……と言っても、極わずかな変化だけど。
「なんだ？ソフィアのことか？」
彼女のことについて問いかければ、無表情を保ちつつ、『違います』と答えた。こういう時には便利だよな、使用人の表情筋って。
(昨日の馬車であんなん見せつけられて違うも何もあるか)
そう文句を言おうとしたが、感情に乏しくて無自覚なこいつに何を言っても無意味だろう。いっそ自覚させてやろうかなんて考えていると、いきなり声がかかった。
「アルバート様、こちらにいらっしゃいましたか。ロナルド様がお呼びです。アンダーソン家の方々に挨拶を、と」
突然現れた兄さんの執事のテオに驚きつつも返事をした。あいつもあいつで何を考えているかよくわからない。まったく、執事はそんなやつらばかりだな。
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作者名：お芋 | 作成日時：2019年10月16日 21時
