訪問 ページ9
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純粋に、嬉しかった。
認めてもらえたことが。必要としてもらえたことが。
受け取った薔薇はその花弁一枚一枚が鮮やかな真紅で、もう少し力を入れたら崩れてしまいそうだった。儚い一輪の花。彼のセンスは嫌いじゃない。
「あれ、Aさん。なんかご機嫌っすね。」
樹状細胞としての留守番をするべく、電話の置かれた窓口で思索に耽る私に、やけに明るい声が降りかかる。
ひょっこりと顔を出したのは、青いキャップの彼だった。逆さに被るその風貌からは、あふれ出る無邪気さを感じる。
「あれ、B細胞くん。どうしたの。」
「んーいやちょっと仕事が難航してて。資料借りれないかなと思ってきたんすけど。」
これですこれ。と小さいメモを渡してきたかと思えば、机の上に置かれたアイスボックスクッキーに手を伸ばす。
「これ食べてもいいっすか。」
「もう食べてるじゃないの。」
ご褒美と称して留守番のたびに樹状細胞さんがくれる私用のおやつだけれど、さすがにもう子供じゃない。
...樹状細胞さんの中の私は、そうじゃないみたいだけれど。
「ってか、さっきからずっと気になってたんスけど。」
「うん。」
「その薔薇。どうしたんですか。」
想像以上のペースでクッキーを頬張りながら、興味津々に指さしてきたのは例の真っ赤なそれである。
ふふっと自慢げな笑みがこぼれてしまう。
「どう？司令にもらったんだ。」
司令。その単語を聞くなりピタリと一度動きを止め、其のあと、何がどう面白いのか腹を抱えて笑いだすB細胞くん。
なんだなんだ。そんなリアクション、いくらなんでも失礼じゃないか。
「いっやーーー！いっくらなんでも、バラって。バラって！！！」
「えっ？」
「めっちゃ似合ってるっすよ、Aの姉さん。」
丸っきりふざけた口調のまま、歯を見せて笑う。
その眩しい笑顔は全く吸い込まれそうな程眩しいわけで、なんだか悔しかった。
「てかAさんって俺には敬語使ってくれないっすよね。」
「ちょっと、違うかなって。」
コロコロと展開する話題。
頼まれた資料を探しながら、しっぽを振る犬を連想していたとは言わないでおく。
「ここでは美味しいクッキーで甘やかされて、その様子じゃティータイムにも巻き込まれてそうだし。あっちでも高そうなケーキに甘やかされてるんすよね。」
「...まあ。」
「羨ましい限りっすよ。」
砂糖の、二乗。
そういえば今日は甘いものを食べすぎてしまった気がする。
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作者名：るーこ | 作成日時：2019年3月26日 1時
