157話 ページ13
「っ……！」
夕方になっても続けられている特訓に、私は思わず腕の中のバインダーをぎゅっと握りしめた。
ボロボロになっていく先輩達を見て、思わず伸ばしかけた手を引っ込める。
(ダメ、揺らいじゃダメ)
これも、帝国に──お兄ちゃんの学校に、勝つ為なのだ。
変わってしまったあの人に、自分の事など歯牙にもかけていないかもしれない、あの人に勝つ為。
そう思って拳をぎゅっと握った。
「春奈ちゃん、もうそろそろ特訓終わりそう。……ボトルとタオル、用意しなきゃ」
「へ？ あっ、はい！」
そう考えていた所に急にリコ先輩の言葉が挟まれ、吃りながらも了承する。
そういえば、リコ先輩はかなりのブラコンだ。本人は自覚していないのか隠そうとする気は見えないが、少なくとも結構なものなのは見て取れる。
(リコ先輩、円堂先輩のこと心配してないのかな……)
私が見てるだけでも痛そうなのだ。木野先輩も駆けよって心配している。そう思って先輩の方を見る。
そして私は思わず作業の手を止めた。
そこには顔は歪める先輩の姿は無い。
ただ、無表情で淡々とその光景を見つめているだけの先輩がいた。
見たこともないその表情に硬直してしまう。
普段リコ先輩は、怒っている所は見たことないと言われるほどに穏やかな人物だ。
大抵のことは笑って許すし、周りの空気を読むことにも長けている。
だから、大体優しげな笑みを浮かべていることが常なのだ。
だというのに、まるで能面のような何の感情も見て取れない無表情。
驚きが声音に出ないよう、声を掛ける。
「……あ、あの」
「え……あ、ごめんね。ちょっとぼうっとしちゃって」
一瞬はっとしてからにこりといつも通りに微笑まれる。
その微笑みはいつも通りなのに、さっきの無表情がまだ頭の中に残っていて、違和感を感じてしまった。
だって、あんな能面みたいな、あんな顔、初めて見たのだ。
「あの、今の、顔」
「顔？……どうか、したの？」
それから不思議そうにことりと首を傾げられ、二の句が継げなくなった私は、何でもないですと首を横に振った。
そう？と言ってから円堂先輩達に駆け寄っていくリコ先輩はいつも通りの姿だった。
「……先輩、あんな冷たい表情をするんだ」
思考の隅で何かが引っかかった。
新聞部の私のこういう勘はよく当たるのだけれど、結局違和感を感じながらも私は作業を進めた。
「金色の目……なんて、目立つだろうし、ね」
まさか、と笑った。
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黒牡丹(プロフ) - 焔さん» 好みと言っていただけて本当に嬉しかったです。書けないことになれば、とにかく頭の中に思い描いていたネタだけでも箇条書きにしてでも投稿はするつもりです。嬉しく優しいお言葉、本当にありがとうございます。 (2020年7月23日 12時) (
レス) id: 51616291f0 (このIDを非表示/違反報告)
焔 - 黒牡丹さん» レスありがとうございます。黒牡丹様が帰ってきてくださって、今の心境を教えてくださっただけでも嬉しいです。ありがとうございます。 (2020年7月14日 22時) (レス) id: 3ce071c9ce (このIDを非表示/違反報告)
黒牡丹(プロフ) - 焔さん» コメントありがとうございます。お話の続きを私自身が書くのは無理だと悟ってしまいました、申し訳ありません。なんとかして、彼女の物語を完結させたいと思います。どうか、よろしくお願いします。 (2020年7月13日 12時) (レス) id: cd13c32878 (このIDを非表示/違反報告)
黒牡丹(プロフ) - 夜さん» コメントありがとうございます。何度もコメントしてくださっていたのに、本当に申し訳ありません。私の手から離れるかもしれませんが、それでも一度思い描いた物語として皆様の元に届けたいと思っています。読んで頂いて、本当にありがとうございます。 (2020年7月13日 12時) (レス) id: cd13c32878 (このIDを非表示/違反報告)
黒牡丹(プロフ) - 翡翠さん» コメントありがとうございます。こんな形でのコメント返信申し訳ありません。せめて、物語として皆様の目に触れるようにしたいと思います。 (2020年7月13日 12時) (レス) id: cd13c32878 (このIDを非表示/違反報告)
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