149.香り ページ20
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「振り回されてるよねー俺ら。あの男に」
『ほんとだよ。人生めちゃくちゃだよこっちは』
「お前高校まで選んじゃったもんねー、ところで進路どうすんの？」
『…迷い中。勉強嫌いじゃないから大学かな』
「嫌いじゃなくてニガテ、でしょ」
『よくわかってらっしゃる。…鳴は？』
「俺？ドラフト1位指名で破格の契約金提げて入団」
『あ、うん。もういいや』
｢聞けよ｣と睨む鳴にへらへら笑った。
そろそろ空気はしんとしてきて、
球場は、さっきまでが嘘のように静まり返ってる。
「A、手ぇ出して」
『…手？』
「広げてこっち向けて。…そうじゃねえよ」
『飴でもくれるのかと』
手のひらを横に差し出した私に鳴がため息をつく。
「ほんと色気ねぇ、」そう言う鳴の前に、ハイタッチするみたく手を差し出す。
そう言えばグラブトス、鳴がよくやってるグラブトスってかっこいいよなぁ、
そんなことを思っていたら、手の大きさを比べるみたいに鳴の手が私の手に重ねられて、
するっと恋人つなぎみたく指を絡めて、
世代ナンバーワンの呼び声までかかってしまったピッチャー様は、幼なじみの私の目を優しい目で見て、
「A。…俺と付き合って」
甘い香りが、ふんわり漂ってきそうな可愛い顔。
汗をかいてマウンドに立つ時は、ギラリと王様の表情を見せて、
今私の目の前にいるこの幼なじみは、優しい目をして笑ってる。
「俺と付き合ってよ、A」
あっさりと放たれたその言葉に、絡めた指の温かさに、ドキンと胸が高なって、
気づけば私は、涙をこぼして鳴を見つめていた。
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作者名：すた | 作者ホームページ：
作成日時：2016年2月16日 17時
