【QK】オダマキに反旗を (ページ5)

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Ⅴ.fkr ページ5

やむを得ない状況だったと聞いている。火事のマンションに取り残された彼女が、友人の子である男児の救出を優先させて自分が犠牲になったのだ。話を聞いてまず、そんな場所に住んでいる彼女の友人を恨んだ。そこにノコノコと遊びに行った彼女を恨んだ。そして最後に、そんなことを考えた自分を恨んだ。子どもを見においでよ、と彼女を家に誘った友人が後悔なんて言葉じゃ済まないほどに泣きわめいていたのを葬式で見かけたからだ。

棺の中に遺体は無かった。全て熔けたか、爆発で消えたか、はたまた見せられる状態じゃないほどのダメージだったのか。何も知りたくなかった。

雨が降った時、君は眼鏡だから濡れないようにと傘を差し出された。優しい人だった。転んだ人がいたらハンカチを差し出し、電車賃が足りない人がいたら万札を貸し、子どもと目が合ったら笑顔で手を振るような典型的優しさだった。そんな優しさに惹かれて少しずつ縮めた距離が0になった時、火が全てを燃やした。

「暑っつい」

こんな暑さの夏の日だった。年々高くなる最高気温は俺の体力を確実に奪っていく。
外回りという悪しき習慣に体を摩耗されつつも、あの日の事を時々思い出すことがある。連絡を受けた時、あまりにも高い温度によって空気が揺らぎ、景色が歪んで見えた。どこかのファミレスのノボリがはためいたこともしっかりと覚えている。

でもきっと、彼女はこれよりももっと熱い場所にいたんだろう。段々と迫ってくる炎から腕の中の小さな男の子を庇い、やってきた消防隊員に預けた瞬間に爆発に巻き込まれた、らしい。

ニュースは死を美談として取り上げた。反響は数日で消えた。一億を超える人間の住む日本でたった一人に何日も時間を費やしてはいられない。現場においてあった花は風でさらわれ、跡地には新しく住宅が建てられた。こうして少しずつ、彼女を忘れるこの街から離れることを決めた。二度とこの街には来ないと決めた。そうして俺は、彼女の生まれ故郷を忘れることにした。