フルネーム ページ10
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梅原さんの周りの人達から私は「Aちゃん」と呼ばれている。ただのマネージャーなのにそんな親しげに呼んでもらって嬉しい限り。だけど梅原さんからは名前どころか名字、いや、マネージャー呼びすらされたことがない。
人前だと「うちのマネージャーは」なんて言ったりするけど、そんなのは極わずかだ。
『梅原さんって私の本名知ってますか？』
「あ？なんだ急に」
『いえ、別に…』
移動する合間に聞いてみたが、実際、梅原さんの口から名前が発されることは無かった。
アフレコ現場に来て、私は別室でやらなきゃいけないことを済ませる。まだ始まってないからブースに行って梅原さんに飲み物要らないか聞きに行こうとしたら、梅原さんの方からこっちに来てくれた。
『どうしたんですか？あ、飲み物ですか？』
「松野A」
『え』
「お茶。よろしく」
『は、はい』
フルネーム呼びされた。初めてなんだけど。人からフルネームで呼ばれるの。そんなことある？
お茶を買って梅原さんに渡したら「ありがとう」と言われ、ブースに行くのを見送った。
え、本当になんでフルネームなのか分からない。不思議な人だな。でも初めて名前呼んでもらえた。
アフレコが終わって、次の現場へ行く。その前にちょうどお昼時だったからご飯を食べようかな。
『梅原さん、私ご飯食べてきますけどどうされますか？一旦帰ります？』
「次何時だっけ」
『14時です』
「あー…食べる。帰らない」
『わかりました』
一旦帰らないなんて珍しいな。あ、この前遅刻したのがトラウマなのかな？可愛いなー。なんて思ったけど、どこに食べに行くんだ。
『あ、えっと。ご飯どうしますか？』
「なんかオススメないの？」
『オススメ！？あ、じゃあ私が就活中によく行ってた喫茶店行きますか？』
「行く」
マネージャーになって数ヶ月。初めて梅原さんとランチだ。
喫茶店に着いて注文したあと、来るのを待ってる間にさっきの名前の話題を出した。
『なんでフルネームだったんですか？』
「フルネーム？あぁ、本名知ってるか？って聞かれたから。知ってるぞって」
『あっ…そういうことなんですね』
「もしかして本名、松野Aじゃないの？」
『いやいや松野Aが本名です！』
「だよね」
これからずっとフルネーム呼びされるのかと思ったけど違うみたい。だとしたら梅原さんは私のことをなんと呼んでくれるんだろうか？
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作者名：p@n@
| 作成日時：2021年9月2日 13時
