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「濱家、さんよな?」
誰。
「知りません」
「え、さっき兄貴のとこきてたやろ?」
「ひとちがいです」
さっきから。チャラい人に絡まれてる。
誰この人。
「弁当届けてたやんか」
絶対、にーちゃんのクラスの人や。
さいあく。
「なあ、待ってやあ」
掴まれた腕、おっきい掌は、男の人のそれだ。
「………っ、な、何のようですか」
「んーん、顔見えたから、話してみたいなあって、思っただけ」
「ひまなんですか?」
「そーやねん、相手してくれる?」
そうやって、チャラ男さんは、掴んでいたわたしの手首に、少しだけ力を込める。
「いやです。わたし、おにーさんと違って、暇やないんで」
強めに振り解いた腕は、思ったより簡単に外れて。
そのまま、振り向かずに歩き出した。
きっと、目を合わせたら負けだ。
あの、吸い込まれそうな茶色の瞳に、これ以上見つめられたら。
どうにかなってしまいそうだもの。
*
「ひまなんですか?」
「そーやねん、相手してくれる?」
そうやって、掴んだ手首に力を込めて、少しだけ熱っぽく見つめてみる。
大抵の女子は、これで落ちるんやけど。
「いやです。わたし、おにーさんと違って、暇やないんで」
あれ?
めずらしい。
そのまま俺の手を振り解いて、スタスタと歩いて行く濱家妹。
自分から誘うのもあんまりせんけど、
誘って断られたのははじめてやった。
逃げられる方が、追いかけたくなるのが男の性ってもので。
いま、モーレツにわくわくしてる自分がいる。
歩き出そうとしたところで、足元にコツリと感触がする。
「………、濱家A」
落ちていた定期入れ。
学生証につけられた写真の彼女は、表情のない顔でこちらを見つめている。
嫌悪感剥き出しの顔と、呆れ顔。
不安そうな顔に仏頂面。
俺の知ってる彼女の顔は、それだけ。
ハマには笑いかけたのかもしれんけど、デカすぎる体に隠れて見えんかったし。
まあきっと、あいつは俺に、見えないようにしたんやろうけど。
「さて、面白くなってきたっと、」
シンプルな作りの定期入れを一度投げてキャッチする。
さて、どうやって動こうかな。
頭を巡らせながら、家路についた。
彼女の怯えて揺らいだ視線が、脳裏に過ぎていった。
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きゃめ(プロフ) - 朱星さん» 好きと言ってくださってありがとうございます!一緒に夏を楽しめるといいなあと思ったので嬉しいです◎いくつか刺さりましたよ!頑張ります!よかったらまたリク飛ばしてください! (2020年9月8日 18時) (レス) id: e2386f9ce6 (このIDを非表示/違反報告)
朱星 - 夏のお話めっちゃ好き!今年の夏は何もなかった…。妄想補填大賛成!お祭り、花火大会、プール、海、星空、バーゲン、夜景、夏期講習の帰り道。何か変なのもありますが、どれか、きゃめさんにさされー(笑) (2020年9月7日 20時) (レス) id: acf62d2dcf (このIDを非表示/違反報告)
きゃめ(プロフ) - ますみさん» コメントありがとうございます!リアクションがあると書いていてとってもやる気になりますので嬉しいです。貧血のときの朝ってもう最悪じゃないですか…その先にこんくらいイベントあるなら頑張れるかなって妄想にお付き合いくださりありがとうございます◎ (2020年9月6日 10時) (レス) id: e2386f9ce6 (このIDを非表示/違反報告)
ますみ(プロフ) - 今度は川西さんですね。関係性も凄く良かったです。川西さんの優しさもあってちょいツンデレな川西さんにキュンキュンしました。確かにこの時の貧血はやばいですもんね。むっちゃ共感しました。 (2020年9月5日 21時) (レス) id: cc9c552fc9 (このIDを非表示/違反報告)
きゃめ(プロフ) - ますみさん» 自分の気持ち乗せまくって書いたので共感していただけるのとっても嬉しいです。お待ちしております◎ (2020年9月5日 9時) (レス) id: e2386f9ce6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きゃめ | 作成日時:2020年9月4日 21時